Archive for 04 November 2007

04 November

Jazzが教えてくれたこと

artist file "tanebito" #09 [3/3] 
菅野 邦彦 さん(Jazzピアニスト)

「世界一のスガチンの耳で世界一のピアノを探して来てくれ」と言われて、
初めて外国へ行った。
その時、世の中で初めて飛行機でピアノを運ぶことになる訳です。


___音の粒だちということについては、菅野さんの演奏を聴いているとこだわりを感じます。音の芯を探りながらプレーなさっています。

 そうなんです。
 でも、良いピアノだったら必ず良い音がしますから、音は二の次なんです。先ず、リズムがキチンと思うように入っていないと、心の表現は出来ないですね。リズムと合致した時に、本当の美しさが出てくる訳ね。だから、あくまでもリズムが先なんですよ。

___ではやはり、「音頭」の良さもリズムですか?

 そう。ハッピーな民族の、これはリズムですね。
 ハーモニーなんて、理詰めでいくらでも実験室で出来る訳で、もっと不気味な音があると思ってやっているんだろうけど、僕はそんなの40年くらい前に卒業しちゃった。不愉快な不協和音を出しても、チューニングしてくれた人が可哀相だし、音楽の意味がない。
 日本人って、鼓膜が良いのかな。調律師がみんな日本人になっちゃったことがあった。僕は六本木の「Misty」という所に出ていたことがありまして、「お金に糸目をつけないから、世界一のスガチン(菅野さんの愛称)の耳で世界一のピアノを探して来てくれ」と言われて、初めて外国へ行った。それでNYへ行って、スタインウェイでピアノを選んでね。
 その頃は船に乗せて運ぶ時代でしたが、僕がのんびり吟味して選んだものだから期限に3日遅れてしまうので、飛行機で運ぶしかないということになっちゃった。その時、世の中で初めて飛行機でピアノを運ぶことになる訳です。それが「JALカルゴ」の最初なの。

___そうだったんですか! 菅野さんは先駆けになることをなさっていたんですね。

 全部そう。(笑)
 日本でレコードを最初に出したのは兄貴(沖彦氏)のいた朝日ソノラマだったんです。日本人のやる洋モノの軽音楽ね。一番最初、秋吉敏子さんの演奏を収録して、その次が僕。それが、日本人のプレーヤーが紹介されだしたキッカケなのね。
 兄貴はオーディオ畑なんだけど、CDは耳に悪いから「オレ、辞めたぞ」って。よく薬害の事件があるでしょ?その時は分からなかったけど、後で気がつく。デジタルの音は、僕も最初に聴いた時「なんだコレは!?」と思った。

___CDでは、聴こえない周波数をカットしてるそうですね?

 本当の原盤とはエライ違いなんですわ。良い加工をしてあるらしいんだけど、でもそれも人間の耳を誤摩化している所がある訳ですよ。

___では、今後はレコーディングのご予定は無いのですか?

 レコーディングのことなんか最初から考えてない。(笑)隠し撮りでやって、良いものが出来て僕が良しとしたら、どうぞオンエアしてください。

僕ら、遊んでたからね。
太陽族の前なのさ。


 僕がブラジルで『飛べよ! UFO』をやった後、ピンク・レディが『UFO』を出したみたいね。矢追というのが友達で、ブラジルでUFOを撮って来てくれと言われて、ビデオテープ持って行ってしばらく撮ってた。結局、ブラジル人の友達が「撮れた」と言うので、『11PM』で巨泉が流した。

___30年くらい前のお話ですね。

 30年まで行かないかな。。'80年頃だと思う。

___80'sは、音楽的には不毛な時代だったように思いますが、いかがでしたか?

 あぁ、もうフュージョンになっていたでしょ。僕がブラジルに行ってブラジル掛かっちゃたから、みんなフュージョンになっちゃった。

___では、あの頃の音楽の潮流は、菅野さんがチェンジ・オブ・テンポなさった。

 そう! フォービートからこっちへ来たからね。

___渡辺貞夫さんのアメリカでのレコーディングよりも前だったのですか?

 えぇと、貞夫ちゃんより前に僕はNYに行ってる。彼はブラジルにも来るんだけど、すぐレコーディングだからね。僕は遊んでるだけ。(笑)彼はバークレーに行っちゃったからね。音楽は勉強しないと出来ない、と言うのはねぇ。。

___菅野さんはバークレーに推薦されたのに断ったという伝説があります。

 そうそう。トニー・スコット(1921〜2007/クラリネット奏者)が推薦してくれたんだけど、蹴っちゃった。
 一番の卒業生の秋吉さんの等身大の姿があるから、それを見て「これはちょっと違うな」と思ったの。秋吉さんのピアノは、ビバップとしては大したものだと思うんですけど、僕とは全然違う。ギリギリまで考えて、結局断ったの。

___そうだったんですか。バークレーの推薦を断るなんて、大変なことじゃないですか。

 音楽は、耳で聴いて消化していくものでしかないですから。紙に書いているうちに、こっちは先に行っちゃうのさ。その時間、遅れちゃうんだもの。そもそも、後に残そうなんていう考えが商業意識だなぁと思う。
 でも、友達に頼まれて何曲か作った。『飛べよ! UFO』はブラジルで作った曲。これは自分で湧いて出た曲だけど。

___稀少なオリジナル曲なんですね。

 そう。それと平尾に書いた『しあわせは音もなく』なんかは、二十歳の頃に書いた。「NHKのラジオ歌謡でやるから、この詩につけてくれない?」って僕に来たんだけど、それ、すごく伊豆とかこの辺の感じの曲なの。

___じゃぁ、湘南からこちらの黄金時代にいらしたんですね。

 僕ら、遊んでたからね。太陽族の前なのさ。
 田辺靖雄のお兄さんや、根市タカオっていうベースの人と、いつも鎌倉や逗子でヨットに乗ってさんざ遊んでた。それで、裕次郎と兄貴(石原慎太郎)が「仲間に入れてくれ」って。(笑)それを兄貴が書いたのさ。
 根市さんは東宝に入ったんだけど給料は1万円しかもらえなくて、裕次郎は兄貴が書いた自分たちのストーリーでヒットしちゃって給料800万円ももらって。それで頭にきて彼は辞めたのよ。(笑)今でもベース弾いてるけどね。
 そんな時代なのよ。

Jazzは大事なんですわ。即興性を僕らに教えてくれた。


___そう言えば、菅野さんは、商業的なところとは一線を置いてお金の流れを変えたいとおっしゃっています。

 野球やサッカーの選手も稼ぎますが、音楽産業というのは物凄いんです。一番ヒットしたレコードの売上げは2,000万枚だそうですが、1枚2,500円として、とんでもないお金の流れですよ。
 僕はお金儲けのつもりでこんな鍵盤を作った訳では全くないんだけど、それを横取りするのが常なようです。だから友達が心配して「とにかく何か名前をつけて特許を出せ」と言ってやってくれたんだけど、僕も文章が書けないし、まして特許屋さんも何のことやら分からない。(笑)この手のものは、僕が実際に弾いて、それを皆さんに納得していただくしかない訳じゃないですか。だから特殊なものなんです。
 11月にピアノが出来ると、鍵盤を持ってタイの王様に会いに行く話になっているんです。タイの王様はジャズが好きで、アルトサックスを吹きにNYへ楽器を下げて行っていたんですね。これは大変な国ですよ。政治じゃ、世の中、解決出来ないですから。
 世の中を解決するのは、音楽だけではないですけれどコミュニケーションですから、人との話が出来ないとね。音楽は非常に重要だと思いますよ。

___だからこそ、コール&レスポンスの音楽に戻る。

 そう。
 だから、本当の音楽をやるように皆が心がけないと。このまま行ったんじゃ、それこそレコード会社や電機関係の人達にお金を吸い上げられて、それで終わり。

___お金の流れを変えたい、とおっしゃったのはそういう意味だったんですね。

 だから僕は音楽でお金を稼ぐんじゃなくて、ピアノは遊びで弾いて。(笑)
 僕はヤマメ釣りが大好きで、谷川に行くとビニールの釣り針の袋ばかり。ビニールのものしか置いてないんだものね。だから、仮に谷川に忘れて来ても自然に朽ち果てるようなものを木で作って、そういうものを世界中に売り飛ばしてやろうと思ってる。
 72歳で僕流のデビューと言うか、また遊びに行くのさ。

___そうした考えを、どうやって伝えて行こうと思ってらっしゃいますか? やはり演奏活動を通してでしょうか?

 もちろん。
 ただ有名な人と仕事としてやりたくはないですね。僕の気に入った、趣味の合う人と、ね。世界中に、まだこれから若い方々もいる訳だから。
 僕はピアノを好きだということは負けないつもりでやっているけど、好きな方もたくさんいるし、人の能力なんてそんなに変わる訳ないんですよ。才能がどうのこうのなんて、他人が評価するもので、自分では分からないんです。「頼むからレコードにして売らせてください」と言うから、若いうちですから外国観たいし、そういうことをやって来ましたけれど。
 でも、僕の年代はほとんどみんなお金だったね。だから、アメリカのJAZZは崩壊しました。僕の師匠のエロール・ガーナー、フィニアス、ウィントン・ケリー、アンドレ・プレバンというような本当に素晴らしい人達もいたんだけど、白人系のミュージシャンはレールがあって商業的な指揮者になったりしちゃう。スタン・ゲッツのところのジョン・ウィリアムスもそう。スピルバーグの映画で不気味な音楽をやるようになった。
 ハービー・ハンコックなんか子どもの頃から知ってるんだけど、良いピアニストなんですよ。僕も大好きなんだけど、おかしな音楽を今はやってるねぇ。自分が神様くらいに思って欲しい、と友達として言いたいね。音楽は宗教以上のものですよ。自分を信じて、どなたでも出来る訳ですよ。そうじゃなきゃ、音楽やめた方が良いのさ。
 Jazzは大事なんですわ。即興性を僕らに教えてくれた。



18:00:00 | milkyshadows | |