Archive for 17 August 2008

17 August

「ケ」のジュエリー

artist file "tanebito" [Archives #4] 
藤沢 泉さん( izumi ジュエリー・シマノ


___『アクセサリー・スクール』を始めてからどのくらいになるのですか?

 今年で10年になります。

___ 当初から大盛況だったそうですが、延べにすると何人くらいの生徒さんがいらっしゃったのでしょう?

 月30〜40人ですから、年400人、10年で4000人ですね。本当にありがたいことです。
 皆さんとても良い方ばかりで、どこかで繋がりを持ちたいと思いながらもその教室の時間で別れてしまうんですが、教室展やパーティをやることで個人的な繋がりも出来てきて、とても楽しいみたいですね。
 その間ずっと通って下さっている方もいらっしゃいますが、ウチは入会金もなく、コンスタントに通わなくても良いシステムになっていて、どんなに長い方でも一回一回申し込んでいただく形なんです。
 それは私にとっては厳しいことで、作品がつまらないものだったら人が少なくなるだろうし。だけどそれを縛らないで、やりたい時に自由に、という考えです。
 その人の人生において、いろいろ波があると思うんです。すごくアクセサリーを作りたい時もあるし、他のことに興味がある時もあると思うので、長い目で見ておつき合いして頂きたいと思ってこういうシステムをとっています。
 毎月申し込んでいただく方は本当にありがたいと思いますし、子育てで2〜3年休んで復帰される方もいて、それは自由で本当の形かなと思っているんです。それが長く続いた秘訣かな。
 縛らない。自由。(笑)

___生徒さんも、いろいろな体験をなさっているのでは?

 そうだと思います。
 あまりつぶさには聞かないのですが、表情で分かりますよね。自分の力ではどうにもならない、天然の石の難しさに皆さん辟易としていることがあるんですよ。(笑)
 だけど、2時間3時間やっていると、なんとか形になっていく。そうすると、やっぱり、お顔が輝きますよね。
 「本当に来て良かった」「本当に楽しかった」って言ってくださって、その顔を見せていただくと本当に私も嬉しいです。
 石の色を見たり、触ることでその温度の冷たさを感じたり、それがすごくヒーリングになるとおっしゃってくれます。「何を作る」とか「そのアクセサリーが自分に必要か」ではなくて、ただ「石を触りたい」ということで来られる方もいらっしゃいます。

___「作る」という行為の過程では、いろいろな「気づき」があったりしますよね。

 私自身、あんまり考えずに作る時と、デザインを絵に描く時と、いろいろなやり方で作りますが、天然石というのは人間が作ったものではないので、予想外のことがあります。それによって引っ張られて行くようで、スランプがないです。
 もし同じ材料を使って新しいものを生み出そうとしたら、きっとどこかでつまずくんでしょうが、新しい形のものを発見したり、自然から出た色に感動したり、思っていたものと全然違ったり、それが楽しいところですね。

___教室では、自由にやらせることとキチンと伝えることとのバランスがお上手だと感じました。

 聞いていただいたら教える、という感じなんです。
 他所の教室だったら、「先生」と呼ばれて、テキストがキチンとあって、段階を踏んで、というふうにしますけど、できるだけ私は「先生」と呼ばれたくなくて(笑)
 必要なテクニックを必要な時に体得していただくような形が「大人の習い事」なのかな、と思っているんです。

___天然石はブームですが、石選びの相談は受けますか?

 私は、その人がピンと来たものを買っていただくのが良いと思っています。自分が今欲している石を選んでいただく、そういう強さが皆さんにあって欲しい、といつも思うんです。
 ですから、石の効能とか、そういう話はあまりせずに、インスピレーションで選んでいただきたいと思っています。

___教室を始めた10年前というと、ビーズや天然石のブームより早かったのでは?

 ビーズブームが始まった頃でした。私は宝石を扱っていたので、天然石だけを使ったアクセサリーを作る講習会をやってみたらどうか、ということから始まったんです。
 ビーズブームの中で私に期待していたことは、ビーズで編むストラップやネックレスを、素材の良い天然石に置き換えて作る、というニーズだったんですね。だから初めは、天然石なんだけどカットの揃ったものを使って、ビーズで作るのと似たような技法で教えなきゃいけなかったんです。
 でも、私のやりたいのはそれとは違った。

___と、おっしゃいますと?

 天然石である以上、本来その石にあったカットにするべきなんです。例えば、トルコ石だったら、4ミリにカットしたりする必要はなくて、ただゴロゴロとした石をそのまま活かしたい。
 でも流行っていたのは3ミリや4ミリの細かい雰囲気のものだったので、ちょっとバランスをとるのは難しかったです。

___そういう意味では、時代が流れてきましたね。

 そうですね。皆さん、一通りやったと思います。(笑)
 それで今、興味があって残っている方は、もっと上のものを目指してる。そうなると、ちょうどウチみたいに天然石を活かすアクセサリー作りをしてる所へ来るとビックリして、「あ、私のやりたいのはこれだった!」って言ってくださいます。


___これからの展開については、どんなお考えですか?

 ジュエリーが今まで持っていたイメージをどこかで破壊したいような気がいつもあるんです。ジュエリーを買いにいらっしゃるお客さまは、女性だったら働いていてお金を自由に使える方だったり、男性だったら年に一回クリスマスやお誕生日に買いに来るとか、そういうイメージが普通のジュエリーショップだと思うんですけど、全く逆にしたかったんです(笑)。
 そこに情報が集まっていて、毎日寄っちゃうようなお店。

___とすると、どんな方にどんな形で広めていこうと考えてらしたんですか?

 大胆なんですけど、本当に老若男女なんです(笑)。
 カフェがあることで、3歳のお子さんにお気に入りのメニューがあったり、80歳の方も入ってこられるし、お教室もこの空間でやっています。私の思惑通り(笑)。
 これは既存のジュエリーショップには絶対ないことだと思うんです。

___ワクワクしますね!

 常識的には有り得ない、と言う方もいらっしゃいます。でも、そのくらいのインパクトが小田原には必要だと思うんです。
 「ハレ」と「ケ」ということで言えば、ジュエリーは「ハレ」だという感覚があると思うんですが、対極の「ケ」をやってしまおうという感じなんです。だから、普段は買い物をしなくていいと私は思っていて、一週間に何度でもただ顔を出す、という不思議なジュエリーショップ。
 ジュエリーと言っても、3000円のモノから100万円のモノまであって、「あなたに必要なのはダイヤモンドかも知れないけれど、同時に水晶の石ころかも知れない」ということを提案したいんです。それは、日々、毎日のように顔を合わせてお話をしていくことで分かることだろうと思うんです。

___「ケ」のジュエリーというと、どのようなイメージでしょう?

 宝飾品というと、ダイヤだとかルビーだとかサファイヤだとか、とても高い物ですから、一度買ったらずっと身に着ける。そういうメモリアルなジュエリーというのは、凄く大切で、代々伝えていくような「ハレ」の部分だと思っているんです。
 それに対して、季節季節にジュエリーがあったら楽しいと思ったのが、天然石ビーズを扱っている部分なんです。お洋服より安いかも知れない。それで、時代の気分をいつも纏える。今必要なものを、すぐに、誰でも買える。
 そのビンに入っている石は、宝石と同じものなんだけど、ちょっと濁っているというだけで10円だったりする。それは3歳の子でも買える。
 それが「ケ」だと思っていて、その部分も扱っていきたい。
 今までのジュエリーショップでは分断してしまっていて、その部分はパワーストーン屋さんだったりビーズアクセサリー屋さんだったり、宝石屋さんは別だった。私はその中間に立っていて、どちらも扱って、どちらも同等に素晴らしくて価値のある物だと思って、それが、誰でも来られるということに繋がっています。

___伝統的な宝石というと、権威的な価値観があります。

 今の時代は一つの価値観では計れなくて、個人個人価値観があるし、個人の中にもいろいろな部分があります。
 一人の人の中に、「最高のダイヤモンドを手に入れたい」という気持ちと「この石ころも素敵」という部分があって、キレイなものが好きということでは全然変わりがないと思うんです。
 自分もそうですが、ダイヤモンドを扱っていると「4C(カット・カラット・クラリティ・カラー)」を説明したりするのですが、人間はこれほど素晴らしいカットが出来るということにリスペクトがあって、それに挑戦していく力についても凄く惹かれるんです。それと同時に、何もカットされずに転がっている石の中に「キレイ」を見出すということも自分の中にあって、不思議だなと思います。
 素直になりたいですね。
 高額な宝石を売る為に、権威的な部分に自分がいなければと思って石ころには関わらないというのが、今までの宝石屋さんの考え方だったと思うんです。

___皆さんの反応はいかがですか?

 業界の方は驚いて、「何がやりたいの?」とか(笑)。でも、一般の方は「楽しい」。
 複合ショップをオープンする前、3年間、路面店を休んでビルの3階で事務所だけにしていた時期があるんです。必要最低限の仕事だけをして。
 それが良かったと思うのは、冷静に業界を見ていたんじゃないかな。何か嫌だと思っていた部分がハッキリした。不自然なことをしていた気がするんです。
 その時に、今度やる店は普通の宝石屋さんじゃないだろうな、という気がしていました(笑)。


___ジュエリーショップというと「街」と切り離せない。「街」の中での存在。かたや「スローライフ」など、「街」から離れることへの価値観がある。その辺は、どうお考えですか?

 出来れば「街」から離れたいかも知れない。
 高価なダイヤモンドを見る時も、もっと空気のキレイな所で見た方が良いと思うんです。 アクセサリー・スクールも、すごく風の入る所で出来たら気持ち良いと思う。光とか。空気感。
 ジュエリーショップというと、黒が基調でピンスポットが当たったいるような暗いお店がいっぱいありますが、私は違うと思うんです。もっとナチュラルな場所で見た方が、本当の色も分かるし、嘘がない。そういう所で見た方が良いし、選んで欲しいと思う。

___貴金属についても、「街」を離れて商売が成り立つと思いますか?

 やってみないと分かりませんが、ナチュラルなストーンの場合は、かえってその方が良いと思います。
 都会的なもの、都会にいる人が選ぶジュエリーは、少し難しいかも知れないですが、逆にそれを価値を思って買いに来てくれる人はいると思うので、やってみればまぁまぁ成功の方じゃないかと思います。

___私も美容師として「街」との繋がりはテーマなんです。流行と切り離してのファッションは有り得ないので。
 でも、「美」という精神性が経済システムに取り込まれていることに、違和感を感じています。


 私もそういう仕事に関わっていて、いつも居心地が悪いことは悪いですね。

___藤沢さんの場合は、「天然石」というのが一つの突破口なのでしょうか?

 「自分が息が出来る」というか「自然」になれるところのような気がします。高価な貴金属だけでは息が詰まるところがあって。
 でもかたや「流行」は面白いですよね。都会から切り離された所に移って行ったら、それが新たな悩みになるかも知れないですね。 流行のものを置いてもあまり意味がなくなる。

___ 最先端のものと、地に根を張るもの。 私たちが両方見れるアンテナを持って「媒介」になれば良いのかな?

 そうですね。
 あとは、「街」そのものについても考えた方が良いかも知れないですね。ココにいながら、この街がもっと自然に近づくようなことを考える。
 街の良さは、人がたくさんいて、人が簡単に出逢えたり、情報を直ぐに分かち合えたりすることだろうと思います。街角に店をつくることは、出来るだけ長い時間店を開けて、たくさんの人が入り込めるような場所をつくる義務があるような気がするんです。
 私がココにお店を出して人と人が繋がっていく場所をつくることによって、どういうカタチか分からないけども、自然にみんながこの街を居心地の良い空間にしていくような努力を協力してできるような、そういう流れがつくれたらいいと思っています。

___人が集まる場所を提供するということは、すごく大きな意義がありますね。

 それは商売をやっていく人だったら義務みたいなものだと思っているんです。
 それで私たちも生活させていただいているのですから、いろいろな人と逢う機会があって、より良い何かを生み出す力が生まれるような場所を、いつもここに作っておくということがとても必要ですよね。




20:00:00 | milkyshadows | |