Complete text -- "「ビーチマネー」"

12 August

「ビーチマネー」

artist file "tanebito" #05 [2/4] 
堀 直也さん(サーファー / Eco Surfer代表)

「ビーチマネー」

___ 「ビーチマネー」というのは、どんなプロジェクトなんですか?

 海岸に行くと、どこの海岸でもビーチグラスが落ちているんです。
 ビーチグラスというのは、もともとはビールやワインのビンだったりしたものが川の上流で捨てられたりして、最終的に海まで流れる間に砕けて、長い時間かけて砂や石にもまれて角が丸まって宝石みたいになったものです。このキラキラした宝石のようなものが湘南のイメージと合うと思って、これを何かに使えないか、ということだったんです。
 ビーチグラスは結局ガラスですから、拾うことは海をキレイにすることになるでしょ? だから、たとえばフリーマーケットの時にお客さんが持って来てくれたらサービスをしたりディスカウントしてあげようか、ということが第一歩でした。
 この第一歩の大きな力になってくれたのは、今僕が勤めている「がんこ本舗」という会社なんです。社長がとてもユニークな方で「じゃあ、ビーチグラスが使える1店舗目になっちゃおう!」って言ってくれたんですね。
 それで、きっと他のお店でも、探せばきっと協力店が増えると思って、自分から営業に行ったんです。今では湘南中の50店舗のお店が「ウチも協力するよ」と行ってくれて、ビーチグラスを持って行ったら何かしらのサービスやディスカウントをしてくれるシステムが確立し始めてるんです。

___面白いアイデアですね!

 中には宝物にしたいほどキレイなビーチグラスもあるんです。
 これを、例えば僕がすぐそこのアイスクリーム屋さんに持って行って、一つ渡すと300円のアイスにチョコチップをトッピングしてくれるんです。今度は、アイスクリーム屋さんにビーチグラスがどんどん貯まって、オーナーが「これはキレイだから取っておこう。でも、これはよくある色だから使っちゃおう」と、50店舗のリストを見て「あ、今日はパンが食べたいな」とパン屋さんへ行って、それが今度はコロッケパンに化けちゃう。そうして、パン屋さんのオーナーは「飲みに行こう」と言ってバーへ行って、そこでも使える、と。
 今の時代、ディスカウントストアへ行って安く買って、コミュニケーションなし。だから商店街が元気無くなっちゃってきているけど、この「ビーチマネー」があることで、お店とお店を繋ぐ役割を持っていて、地域活性に繋がる。
 本当にその地域が好きだったら、商店街を盛り上げたいと思うし、理にかなったシステムが出来たと思っています。

「海」を感じて欲しい


___ビーチグラスを拾うと同時にゴミも拾おうよ、ということですね。

 そうそうそう! それが大事なこと!
 ただ「お金として使えるから拾いに行こうよ」じゃなくて、そこで「海」を感じて欲しいんです。

___そこが、エコサーファーのコンセプト「ゴミを捨てないような精神を持った人を増やす」ということに繋がる。

 結局、モラルだと思うんです。
 モラルがあれば、ゴミを捨てないのは当たり前なんだけど、モラルが無ければ無いで育んでいけばいい。じゃぁどうしよう、と言った時に、「ビーチマネー」のような仕組みがあれば、人が海へ行くキッカケになるだろうと思うんです。
 最初は単純に「お金だから拾いに行こう」で良いんです。海に行けば下を見るので、「あぁ、こんな物が落ちてるんだ」とか「思ったより砂がサラサラしてる」とか「温かい」とか、意識は無くても必ずお土産がついてくるハズなんです。そこから、何か変わるんじゃないか、と言うか、気づくんじゃないか、って。
 「ゴミ拾えよ」って上から言うんじゃなくて、それぞれの感性で感じてください、動いてください、ということです。

そこに波が立つ瞬間


___小田原の海だと、酒匂川の河口で流木を拾ったりする人がいます。

 あぁ、あの辺もサーフィン盛んですよねぇ。

___サーファーの方たちが言う「ローカル」って、「縄張り」というような意味なんですか?

 例えば、スノーボードだったら雪さえあればいつでも出来る。他のスポーツでも、テニスや野球はいつでも出来る。でも、サーフィンは海がなくちゃ出来ないし、海があっても波がなければ出来ない。その波だって、いつ出てくるか分からない。
 それで、自分たちの「地元の海」というのがそれぞれあって、そこに波が立つ瞬間にいろいろな人がいっぱい来てしまうと、自分は乗れない。
 地域の人たちをリスペクトする人だったら良いのですが、いきなり入って波を取ってしまったら、やっぱり地元の人は良い顔をしないです。地域をリスペクトすることは、他のスポーツでも何でも同じだと思います。
 本当にみんな、自分の身近にある地元の海をキチガイのように愛してるんです。(笑)本当に愛していれば海を守っているだろうし、ゴミだって決められた日にやるんじゃなくて、行って落ちてれば拾うだろうし、そこでサーファーが上手に伝えられたら最高ですね。
 どこの海も、それぞれの色があっていいと思います。それでいてリスペクトがあれば、ケンカすることなく上手く循環できると思うんです。

___堀さんのビーチクリーン・キャンペーンは、最初から順調だったんですか?

 いや、最初はついつい順番を間違えてしまって、順調ではなかったです。
 Eco Surfer主催でゴミ拾いを始めたんですが、ローカルの人が良い顔をしていないことに気づいたんです。もともと住んでいた人たちが昔から海を守ってきたのに、後からノコノコ来て我が物顔でやっているように感じたのでしょう。正直、ゴミを拾って怒られるなんて、やめてやろうと思ったりもしました。でも諦めずに、今はその人たちと一緒にやらさせてもらっています。
 続けることは難しいけど、だんだんと周りからも認めてもらえるようになって、それが大きな力になっています。
(つづく)


18:00:00 | milkyshadows | |
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