Complete text -- "海の守り方"

19 August

海の守り方

artist file "tanebito" #05 [3/4] 
堀 直也さん(サーファー / Eco Surfer代表)

サーフィンは、ライフスタイルなんです

___サーフィン、本当にお好きなんですね。

 サーフィンは、ライフスタイルなんですよ。
 海は母などと言われるけど、精神的にもリセットされるし、とにかく気持ちが良いんです。とても健康的な生活を送ることができます。
 朝と夕方に波がキレイにまとまることが多いんです。風が吹かないことが多いんですね。岸の遥か沖から吹いてくる風によって波はつくられ、今度は岸から海に向かって吹く風(オフショア)が吹き始めると波の表面がキレイに整えられ、サーファーにとって最高の波になるんです。でも、あまりにオフショアが強く吹き過ぎると、今度は波が消えちゃうんですね。だから、そのわずかな瞬間っていうのがすごくおもしろい。
 波があれば、朝4時には起きちゃうし、夜は11時には寝ちゃう。4時に起きて、2〜3時間サーフィンやって、朝食をモリモリと食べて、潮臭いまま会社行って、また11時くらいに寝て・・・って、すごく健康的な生活でしょう?
 次の日に波があると分かっていれば、お酒も極力飲まないし、肺活量が必要だからタバコを吸わない人が多くなっているし、体だって柔らかい方がいいからストレッチやヨーガをやったり。食事にも気をつけてベジタリアンになる人もいるし、もっとディープに入っていくとスピリチュアル的要素も入ってくる。
 サーフィンをしてる時は時間がストップしていて、「瞑想」の時間だと言う人もたくさんいる。自分にとっては「内観」の時間だったりもするんです。

___今おっしゃったようなことを強く体験したのはどんな出来事でしたか?

 例えば、テトラポット。 あれだけ重い石を海岸線に撒いても、大きい波がドカーンと来ると、一瞬テトラポットが宙に浮くんです。 そうするとそこに流れが出来て、人がいたら吸い込まれてしまうぐらいの流れをつくる。だから、テトラポット周辺で起こった事故は、テトラポットの下に死体が入っていたりすることがよくあるんです。
 そういうことを、サーファーは身体で知っているんです。「自然」を人間の力でねじ伏せることは出来ない。俺たち人間はすごくちっぽけだっていうことを分かっている。
 だからこそ、「自然」に対しては謙虚に、共存したいんだったら無理なこともしないし、危険なこともしない。今日は無理だと思ったらやらないし、それは自己責任ですから。

サンフランシスコで『エコサーファー』を立ち上げました


___海外でステイされたことがあるそうですね。

 5年間の学生ビザを取って、アメリカに行きました。最初はLA、それからハワイ。
 英語の学校に入って、最初の4ヶ月くらいは一生懸命勉強しました。早く学校に行って予習して、その後に図書館へ行って、1日15時間くらい英語の勉強をしたんだけど、周りは日本人ばかりで勉強はつまらないし、英語も全く上達しなかった。
 それだったら行きたい所へどんどん行ってしまおうと思って、たまたまインターネットでWWOOF(ウーフ) という非営利の組織を見つけたんです。それは、農園や農場でマンパワーを募集している人たちと、体力はあるけどお金がなくて、でもいろいろなことを手伝いたい、泊まる所とゴハンは提供してもらいたい、という人たちを繋げるシステムで、そのグループに約20$払うと、そういうマンパワーを欲しがっている農園のリストが送られてくるんですよ。
 それで、カリフォルニア州のリストをもらって見てみると、ソーラーパネルで、お水は雨水を貯めて、環境にやさしい有機野菜をつくっている、という農園があったんです。そこは、サンフランシスコと言っても本当に田舎で、それこそ隣の家まで車で10分というような場所。もう日本人なんか絶対にいない。
 そこへ行ってその人たちと生活をしながら、朝早く起きて水やりをしたり、土を混ぜて苗を植えたり、トラクターで開墾したり、ソーラーシステムの電池を交換したり、あっという間に1ヶ月が過ぎた。そこですごく英語が上達したんです。そこにはもうアメリカ人しかいないので。
 実は、そのサンフランシスコで『エコサーファー』というグループを立ち上げました。僕のヴィジョンを農家の人たちも知っていたし、協力してくれていたので、心良く「旅立っていけ」ということで、今度はハワイ州のリストをゲットしたんです。ホストがサーファー、海まで歩いて行ける、という条件で探しました。それでハワイ島へ行って、そこから毎日サーフィンです。

ハワイ島では、子どもたちが普通に海でサーフィンするんです


___ハワイはサーフィンのメッカですものね。

 ハワイ島でスゴイなぁと思ったことは、子どもたちが普通に海でサーフィンするんですよ。とにかく学校が終わったら、親の車で海まで来るんです。 海まで遠い子もいるから、親が車で連れて来て下ろして行くんですよ。「何時に迎えに来るから」って言って。
 その時間は子ども達が海で遊ぶ時間だから、大人たちはサーフィンをやらないようにしている。 ほとんどの子がサーフィンかボディボードをやる。
 でも、そんな時でもアメリカのメインランドから来たサーファーが彼らの波を取ったりすることがある。それをローカルのサーファーが見つけると、「上がれ!」と。「別にケンカするワケじゃなくて、とにかく上がれ」と。
 「なんで上がらせたかというと、ここの海はオマエだけのものじゃなくて、子ども達のものでもあり、皆のものなんだ。この子ども達はここの海が好きで、この時間帯だけは特に子ども達に海を満喫させてあげたいから、申し訳ないけど上がって、来るならまた明日の朝とか、そういう時間帯に来てくれ」と言う。そういう守り方をしているローカルなんです。
 それが凄くカッコ良くて!僕はこういうことが知りたかったんだな、と思いました。
 まさにビーチの守り方のお手本になりました。もちろんゴミも拾うけど、本当のシーンを見れた気がした。だからみんなスゴク笑顔だし、空間のバイブが良いんだなぁ、というのを感じました。

___その方たちはオーガナイズされて行動しているの?

 そうではないです。
 でもそこにはボスがいて、「俺が最終的には出て行く」という人がやっぱりいる。見た目はもう、体中にハワイの伝統的なタトゥーが入っていて、細長いサングラスをかけて、上半身裸で、髪の毛も長くてガタイが良くて、近づき難いオーラを出してるんだけど、でもサングラスを外すと細い目でニコニコ笑って、子どもたちに「サーフィンしろ、サーフィンしろ」って。
 そういう場所で、僕も半年サーフィンやらせてもらって、一緒に大会に出たり、一緒にゴミ拾いしたり、誰かの誕生日には必ず呼んでもらって、ゴハンを一緒に食べたりしたんです。そういういろいろな経験が今の『エコサーファー』には生きているんです。
(つづく)


18:00:00 | milkyshadows | |
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