Complete text -- "足柄から世界へ"

16 December

足柄から世界へ

artist file "tanebito" #11 [3/3] 
勝又 悠 さん(映画監督 / STROBO RUSH

「俺にはやりたいことがあるんだ」と言っても、結果的に逃げてる時期があった。
「俺はまだまだこんなモンじゃねぇゼ」って、攻撃する手段は映画しかないですから。


___恋愛ドラマばかり撮ってらっしゃるのですか?

 一歩踏み出す過程が好きなんですよ。
 でも、それをずっとやっていると、1年に1回くらい反動が来るんです。『僕、ニート』はそんな作品です。

___『僕、ニート』は東京で撮影なさってますね。

 そうです。
 あの作品では、今まで自分がやってきたことを全部無視したんです。色も粗くして、キレイに撮ろうとは一切思わなかった。

___他の作品と比べると、ストーリーらしい展開もあるように思います。

 あの時、ちょうど僕もニートだったんです。(笑)
 ニートだと周りの目線が辛くて、友達もバカにしてくる。「何で働かないの?」って言われて、「俺にはやりたいことがあるんだ」と言っても、言い訳になってしまう。本当はそれをやりながらでも働ける筈なのに、結果的に逃げてる時期があった。「俺はまだまだこんなモンじゃねぇゼ」って思いながら撮った作品です。
 その「怒り」とかも入ってるんです。何に対して怒っているのか分からないですけど。(笑)
 自分に対しての怒りもあるし、働かない者を一括りに「ニート」と呼ぶ世間の見方にも怒りがありました。自分には、攻撃する手段は映画しかないですから。

___そういう意味では、メッセージ色の強い作品ですものね。

 役者のレベルが高いんです。一緒にやっている年数が長い人たちばかりで、すごく信頼し合っていたんです。「好きなように演ってよ」って、スンナリ行きました。

満足出来ないから続けているんです。
極めたいですもん。


___作品を撮り終わると、絞り出した感じになるのでしょうか?

 編集が終わって上映が終わると、ちょっとホッとしますね。
 好きな作品は、自分で何回も見てアラを探すんです。「ここを直せばもっと良くなる」って。だから、ずっと続いている感じがする作品もあるんです。

___撮り終わってもまたもう一本撮ろうと思うのはどういうお気持ちなのですか?

 思い描いたものが撮れなくて、完璧じゃないからなんです。どこかしらに失敗している点があるんですよね。それが悔しいんです。「次は絶対に間違えない!」って。そうすればもっと良くなる。それの繰り返しです。満足出来ないから続けているんです。
 「あぁ、また寝ない現場が待ってるのか、、」って、大変に思うんですけど、そんなこと言いながらも満更でもないのかな。

___だから一つのテーマを追ってるんですね。

 そうです。じっくりね。
 極めたいですもん。胸キュンの恋愛物の称号とかもらいたいですもん。(笑)

編集は、音楽が入った瞬間に一気に流れて行く感じがするんです。
音楽を着けるときが一番幸せです。


___勝又監督作品には、rakiraさんの音楽が欠かせません。素敵なピアノですね。

 本当に素敵なピアニストなんですよ。rakiraさんがいなかったら、僕は路頭に迷うと思いますよ。映画撮れないんじゃないかな。(笑)
 つきあっていた彼女が、たまたまrakiraさんの路上演奏を聴いて「こんな人がいたよ」と教えてくれたんです。僕が映画のための音楽を探していて、彼女に相談したら「あの人がいるじゃん」って。それでCDを買って来てもらって聴いたのが出逢いです。僕の映画を送って「こんな映画を作ってます。これから映画の音楽を作っていただけないでしょうか?」とコンタクトしました。

___映画と音楽がピッタリとハマっていますね。

 嬉しいですね。編集は先ず音楽無しで繋いで行くんですけど、音楽が入った瞬間に、溜まっていたものが一気に流れて行く感じがするんです。音楽を着けるときが一番幸せです。
 映画を観てくれた方が、rakiraさんの路上演奏を聴いて、「あ、あの映画の曲だ」ってメールをくれたりします。青葉台とか町田で目撃情報が多いんです。
 rakiraさんも「STROBO RUSHの映画の曲ですよね?」って声をかけられるみたいですけど、何本かまとめて制作しているので、新作のことは全く分からなくて、「あ、使ってました?」って困るみたいですけど。(笑)

「足柄から世界へ」って、よく口にしているんです。
自分の生まれ育った風景は、絶対に忘れたくないと思っています。


___映画を撮ることは一大作業です。

 お祭りですね。「文化祭」という感じです。ふざけている奴がいて、それを叱る奴がいて、真面目にやる奴がいて、オイシイ所だけ持って行く奴がいて。
 だから、楽しんだ者勝ちだと思ってやっています。どんなに寝てなくて辛くても、眠いと言ってばかりでは何も始まらないんです。「監督」という立場ですから、監督が沈んでいたら現場が沈んでしまうし、それが作品に影響してしまうので、カラ元気でも常に「頑張ってみよう!」ってキャラを現場では作っていますね。
 
___人の輪の中心にいることは、どんなお気持ちですか?

 プレッシャーもありますが、あまり気にしないようにしています。「何かあったら俺が責任取るから」って言うくらいですね。
 こんな自分に賛同して付いて来てくれる仲間たちがいるので、「コイツらには絶対恩返ししないとなぁ」って思います。その恩返しとは何かと考えたら、自分がどんどん上へ行って、全員を引っ張り上げたいですね。

___どこまで引っ張りますか?

 一番上まで。(笑)日本映画の頂点に立って、一番上からの景色が見たいんですよ。それを、昔から一緒にやって来た仲間、自分に付いて来てくれた仲間と一緒に見たいんです。
 ゆくゆくは、小田原や足柄が観光スポットになるくらい有名にしたいですね。「カツマタと言えば、足柄」「カツマタと言えば、小田原」とかって。
 だから、この町から世界へ飛び出したいですよね。「足柄から世界へ」って、よく口にしているんです。自分の生まれ育った風景は、絶対に忘れたくないと思っています。

___勝又さんにとって、この足柄地域の良さは何ですか?

 「時間」が違うんですよね。東京から帰ってくると、時計の針がゆっくり動いている感じがして、一気に疲れが取れるんです。本当に癒しの場ですね。
 暇な日は夜中まで一人でドライブしています。足柄地域全部、脇道まで入って。それくらい好きなんです。

___役者さんもこの辺の方ですか?

 いえ、全く違います。みんな東京の方なので、東京で集合して、車でこっちへ連れてくるんです。みんなビックリしますよ。「凄い所だな!」って。(笑)

___わざと凄い所を選んで撮ってらっしゃいませんか?(笑)

 (笑)そんなことないんですけどね。。

リアルなのが一番です。
リアルだからこそ伝わるもの、リアルだからこそ届くものというのがあるんです。


___今年の夏は沖縄に行かれたそうですね。

 4月と6月、2回行きました。

___カメラを持っての旅だったそうです。作品にされたのですね?

 はい。『琉球at the bord walk』という作品です。
 カメラを持って行くつもりはなかったんですけど、観光で海を撮ってこようと思ってビデオを持って一人で行ったんです。1日目は普通に観光スポットを廻って、2日目に宿が無くてどうしようかと思っていたら、食堂の横に座ったおじいちゃんと仲良くなったんです。その人が「ウチに泊まって行けよ」って。そのおじいちゃんが戦争の話をしてくれたんです。「南国・バカンス・常夏というイメージでみんな沖縄に来るけれど、この島にはこういう時代背景があって、こういうおぞましい過去があって、、」って。それを聞いて、「あぁ俺は全く沖縄のことが分かっていなかった」って恥ずかしくなっちゃったんです。
 それで、せっかくビデオを持って来たんだから、沖縄本島を一周していろいろな人に話を聞こうと思ったんです。わざと自分はバカンスで来たように装って、相手の反応を見たり、戦争のこと、米軍基地のこと、就職難のこと、全部聞いてやろうと思って撮ったんです。

___ハプニングで生まれたドキュメンタリー作品なんですね。

 ハプニングの連続でした。「カメラなんか持って行ったら、どうなるか分からないよ」と言われるような危険な場所があって、そこへ行ってカメラ回しながら歩いて、自殺行為ですよね。さすがにヤバくて逃げましたけど。(笑)
 現地で10本パックのテープを5ケース買って、寝る時以外はカメラを回し続けて、撮って撮って撮りまくりました。
 飛び込みで入った宿のおばちゃんに戦争の話を聞いたり、ホットドック売りの若者に出逢って、深夜でも時給630円だと聞いて「でも物価は東京と変わらないからツライでしょう?」って。それでも前を向く力は凄い島だと思いました。
 8日間、行き当たりばったり。金無し宿無しでこんな旅が出来るんだよ、っていうガイドブック的な役割をしてくれたら良いですね。(笑)

___「ドキュメンタリー」というジャンルは、どうお考えですか?

 ドキュメンタリーが一番好きなんです。生々しくて、リアルじゃないですか。
 「そこにいる女の子たちをたまたま撮っている」という感じを大事にしていて、その手法を説明するなら「ドキュメンタリー」が近いんじゃないかと思います。
 リアルなのが一番です。リアルだからこそ伝わるもの、リアルだからこそ届くものというのがあるんです。

___脚本を書くにあたっても、リアリティを追求なさっている。

 そうですね。必要のない台詞をわざと入れたりして、日常にありがちなやり取りを脚本に散りばめたりします。

___作品の中の女の子たちの会話は生々しいですものね。

 お客さんには、もう一人の登場人物になって欲しいんです。入り込んじゃってもらいたいんです。

共有したいんです。
映画というフィルターを使って、「こういう事って、あったでしょ?」って。
相手の胸の中に入り込んで、しまい込んだ記憶の箱を開けるのが快感なんです。


___どうして「映画」という手段を択ぶのですか?

 難しいですねぇ。。
 やっぱり、詩が書きたいんですよ。でも、詩だけでは食べて行けないことを専門学校に入ってから知って、「じゃぁどうすれば良いんだ?」と思いましたが、「映像に詩を乗せれば良いんだ!」って気づいたんです。そうすれば相乗効果で良いものが生まれる筈だ、って。
 だから、「言葉」を伝えたいが為に、遠回りして映画を撮っている感じですね。

___なるほど。。

 例えば、たった6行の詩を書いたとしたら、その6行を伝える為に映画を撮るんです。遠回りですが、それしか方法がないんです。

___詩は今でも書いてらっしゃるんですか?

 昔は1日1編書いていたんですけど、今は「詩」という形では書いていないですね。それを脚本に持って行くようにしています。「脚本用の詩」ですね。そこからイメージを膨らますんです。

___やはりそれは「恋愛物」なんですか?

 恋愛だったり、昔のことを想って書いたりします。昔の彼女だったり、昔の友達だったり、親父だったりお袋だったり、実際に体験した出来事だったり。

___そのようにして、「何」を映画として撮りたいですか?

 それはズバリ「記憶」なんですよ。

___「記憶」。。

 自分の記憶を、映像に刷り上げて行きたいんですよ。だから、結果的に、自分の為に撮るんですよね。今まで経験してきた物事を忘れない為に、それを形として残す為に、撮るんです。
 あの時思ったこと、あの時感じたこと、そう感じた自分が確かに居たことを表現するには何をすれば良いかと言ったら、それを映画にしてしまうんです。だから、映画の何処かしらに「自分」がいるんです。だから田んぼを使うのかもしれないですね。田んぼの何処かに「自分」が居て欲しい。
 あとは「憧れ」です。自分が経験出来なかったことも、映画の中では何でも自由ですから。「こういうシチュエーションで、こういう言葉を言われたかった」みたいに。
 共有したいんです。映画というフィルターを使って、「こういう事って、あったでしょ?」って。「はい、ありました」って言われるのが、快感ですよ。

___それを、どういう人たちと共有したいですか?

 やっぱり、僕みたいにパッとしない、好きな人に「好き」と言えない青春を送った人とか、ね。
 相手の胸の中に入り込んで、しまい込んだ記憶の箱を開けるのが快感なんです。「ほら、見ろ」って。(笑)

___(笑)思い出したくない事まで思い出したりしますよね。

 イイ迷惑ですよね。(笑)

___そのフタを開けて、どうするんですか?(笑)

 開けっ放しで、帰っちゃいます。(笑)



 


18:00:00 | milkyshadows | |
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