Complete text -- "『風にかえるアトリエ』"

23 March

『風にかえるアトリエ』

artist file "tanebito" [Encore Special] 
伊東 知子 さん(創作ジュエリー作家 / 風にかえるアトリエ

よく「石がすごく生き生きしている」と言われますが、
本当に生き物を扱うように扱っていて、
たぶんお花と同じ様にひとつの命をもって生きてるんじゃないかなって思っています。


___どうして自然石を扱うようになったんですか?

 もともと 天然素材の絹とか麻とかすごく好きでした。自然がつくった造形の中に人間が努力しても到底及ばないような素晴らしい姿を見た時に、あぁもう自然の力の方がスゴイんだって思って。
 そしたらもう、半分は自然に助けてもらいながら、素晴らしい造形の原石を使って創作活動をやっていった方がいいんじゃないかなって。

___きっかけがあったんですか?

 自然石を使ったネックレスを作るお教室があるからと友人に誘われて、そこで教えてもらったのがきっかけです。当時は今みたいに石を売ってるお店が少なくて、だけどその人の家にはいっぱい石が並んでいて、「あぁこんなのあるんだ。いろいろあるんだ」って思いながらひとつ自分のを作って。
 そしたら何故かそのネックレスを着けてる時だけ無性に悲しくなって涙が出たりとかして、「あっ、石って何かあるかも」と思って。それが石の事を詳しく知りたいと思ったきっかけですね。何か心と関係してる気がした。
 今もそうなんですけど、私が図書館みたいに満遍なくすべての石を揃えるっていう必要はなくて、自分がいいなと思う石を仕入れてきたら、それを求めてくる人と私が出会うという流れです。
 よく「石がすごく生き生きしている」と言われますが、本当に生き物を扱うように扱っていて、たぶんお花と同じ様にひとつの命をもって生きてるんじゃないかなって思っています。結晶するのに百年単位で何ミリって結晶する石もあれば、鍾乳洞みたいにどんどん成長する石もあって、やっぱり人間の目に見えないレベルで成長してると思うんですよね。ある時色が変わったり、あるお客様が来ると急に綺麗になったりとか、そういうのを見ているとやっぱり「あぁ、生きてる!」って。

___だから「パワーストーン」と言う?

 やっぱり生き物同士だから、反応するのでしょう。
 人間同士でも、素敵な人と出会うと心がすごく高揚したり、自分がパワーをもらえたって思う様な事がありますが、それと同じようなことだと思います。
 たぶん一番は、美しいものと出逢ってそれを自分が手に入れる事ができて、それを見た時に「あぁ美しい、綺麗だなぁ」と思う事が、すごく魂の栄養なのかなって気がしています。だから、あんまり、パワーストーンの種類とか作用とかはブッ飛んじゃって「あぁキレイ♪」ってウットリするのが、いちばん心が満たされる事なんじゃないかなと思います。
 私が表だと思って飾っているものを、お客さまは反対側が美しいと思って、帰りに反対側を表にして置いていったりとか・・(笑)それもアリだなと思う。あぁこんな美しさを発見した、って。
 私に合う石を探してくださいっていう事もすごく多くて、そういう出逢いをプロデュースすることも私の仕事でもあって、それは楽しい。魔法みたいで。(笑)

「人間にとって一番身近な風は、自分の呼吸だよ」って言われて、
この空とこの海とこの原生林の自然のリズムに戻りたいって思った。


___どうして真鶴だったんですか?

 真鶴に遊びに来てるうちに、「あぁ、この空とこの海を毎日見ていたら、私の作風はもっと変わるかも知れない」と思って、新しい自分を見たくなったんです。

___土地と作品の関係性って面白いですね。

 舞台のときも、いろんな人の舞台を観察して、いちばん大事なのは湿度かなって。例えば『アラジンの魔法使い」っていう砂漠のお芝居を観る時に、その乾いた風を衣装で表現できるか、装置として表現できるか、って。 お客さんがそれを感じることができるとすごく良いなって思った。

___肌触りですね。

 はい。空気感。感じる世界。
 この話で思いついたのは、私の石が「生きてるね」ってよく言われるのは、何か命っぽい呼吸してるような風を感じるのかも知れない。乾燥したただの石じゃなくて。

___だから『風にかえる』?

 それは後づけでね。そうかも知れない。
 この場所の名前を考えているときに、原生林の近くの海を見下ろせる所に座っていたら、凄く大きな風が吹いて、高いところにある楠の葉っぱがフワァって落ちてきて、一枚一枚がくるくるくるくる回りながら、目の前をヒューって横切っていたの。
 「あぁ風だぁ」って思って、『風のアリトエ』にしようかなって思った。
 その帰り道にカエルに会って、最初『風とカエルのアトリエ』にしようかと思ったんだけど、ちょっとモジッて『風にかえる』にしてみた。
 名前を『風にかえるアトリエ』にした後に、整体をやってる方に「人間にとって一番身近な風は、自分の呼吸だよ」って言われて、「あぁ風にかえるっていうのは、自分の呼吸に戻るって意味があるなぁ」って。私自身も、自分の呼吸を取り戻したくて真鶴に来たようなところもあって、なにかこの空とこの海とこの原生林の自然のリズムに、私が戻りたいってすごく思った。

___ カエルのメッセージだったんですね! カエルは、南米ペルーでは神聖な動物とされているそうですね。

 音楽をやってる人は、ゲコゲコ鳴くからか「音楽の神様」って言う人が多い。「癒しの神」と言う人もいて、カエルが鳴くと浄化の雨が降るって言う。
 たぶん、かえる、元に戻る、っていうのは癒しでもあるし浄化でもある。その象徴っぽい気もする。でも「自分の呼吸に戻る」っていうのが、今の私には一番ピンと来てるんだけど。

癒しも、その創造力の一部分ですよね。
明日の自分を創っていく力。


___海の波の回数は、人間の呼吸の周期に近いんですってね。

 日常であれほどゆっくり呼吸するのは、なかなか出来ないですよね。
 現代社会では、早く呼吸することを求められる。早足で歩くことを求められるから、その期待に応えるように、だんだん呼吸も早くなっていって、吐き出すのが少なくなって、溜まっちゃうんですね。

___ それに気づいたら、自発的に改善するコツがあるかしら?

 自分の呼吸を意識することも、ひとつのコツかな。
 私、作業中に息を止める癖があって、最近は作業が一段落したときに深呼吸するようにしてる。酸欠になればなるほど、妙にトランスに入ってくみたいなところもあって、その呼吸が作品のリズムになってくる。

___呼吸のリズムと言えば、海の波の回数が呼吸と近いから同調していくように、石にも波動があるんですよね。

 そうですね。波にさざ波があったり大きな波があったりするように、石にも、形によって色によって違ういろいろな種類のリズムがありますね。

___石に触れるといろいろな感覚を感じるということは、やっぱり人は何処かでそういうことを感じるセンサーがあるということなのでしょうか?

 情報は受け取っていると思います。意識のあるなしに関係なく。
 例えば、ゆっくりおおらかに過ごしたいのに周りの環境はそうではないという時に、ゆっくりおおらかな感覚のする石を自然に手に取っちゃう。それで、その石を握ってるとなんとなくリラックスする感じがする。

___潜在意識で先に気づいているんですね?

 はい。だから、石を直感で選んでもらうのは、今自分にどんな石が必要なのか潜在的に答えがあるからこそ、そこを手がかりに石を選んで欲しいからなんです。
 潜在的なパワーや、自分を創っていく力って、本当に凄いですね。

___ 自分を創っていく力。。

 はい。創造力。明日の自分を創っていく力。だから、癒しも、その創造力の一部分ですよね。

___たしかに「癒し」と「創造」は、そこで起こる出来事が同じドラマだと思います。

 そうなんです。
 古いものが片付いたとたんに、ドアがバーンと開いて新しいものがバーッと入ってくるのは、ほとんど同時に起きてきますよね。だから「癒す」というのはドアの前の荷物を片付けることで、片付いてドアが開けば新しい出会いやお金の流れだとかワーッと自然に入ってきちゃう。
 お金持ちになりたいとか、ビジネスを成功させたいと言うのなら、最終的に、流れを止めているドアの前の荷物を片付けなくちゃいけない羽目になる。で、片付けると新しいものが始まる。

勇気はね、プログラムされてるんだよね。誰にも、もれなく!(笑)
選ばれた人だけが持つものではなくってね!


___ところで、3年前のコラム『SoulBeauty』について聞かせてください。「そもそも“美”は、衣食住に対してどういう位置づけなんだろう?」という問いから始まったのですが、書いていていかがでしたか?

 今読み返すと、よくまとまってると思う。びっくりするくらい。
 ある石をお客さんが見つけて「あぁ綺麗」って言う時に、そのお客さんも綺麗なんですよね。石とお客さんと両方が綺麗だ、って思っていて、あのコラムでは、そういう日々感じているけど言葉になっていなかった事をまとめさせてもらったって感じです。

___書きながら気づいた事も多かったですよね。

 テーマ毎にそこから引き起こされるものもあって、「海の思想」がそうでした。それがキッカケになって、ひとつのまとまりのあるものがそこから触発されて、それが今すごく大事になっている。

___「海の思想」がピンと来たのは、どういう部分だったのですか?

 アクアマリンという、「海の女神」と呼ばれている石があるんです。
 海って何でも受け入れちゃうでしょ。その中に魚も住めば、船が行ったり来たりもしてて、ダイバーがその中を泳ぐし、大型タンカーが座礁しても、それすらも海は「どうぞ」みたいな。そういう存在って凄いと思う。川のように上から下に流れるわけでもなく、すべてを内包してる。

___すべてが繫がっている。

 たぶん空気もそうなんだと思うんだけど、地球の裏側までずっと空気だから繫がってるんだけど、あんまり実態がないから意識できない。海っていうのは、命のつながりをもっと理解しやすいかな。

___母性とも繫がりますよね。生命を育んだ海。

 そうですね。「母なる地球」って言うけど、「父なる地球」って表現はない。すべてを受け入れる、って母性っぽいですね。

___どうして「父なる地球」って言わないんでしょうね?(笑)

 ね(笑)。命を自分の中に宿す、という感覚は「母」っぽいよね。そこがとっても重要なんだと思う。
 自分の中にはヒーラーや神はいないと思っちゃうのがそもそも間違いで、自分の中に答えも、創っていく部分も、癒していく部分も、全部その力はあるんですよね。自分の命をまるごと受け入れる感覚からスタートする。

___ 例えば、宇宙船が地球から離れて遠くまで飛ぶためにそれなりの体裁を整える必要があるように、男性性っていうのは、一旦宇宙のリズムから切り離された合理性があると思う。それが良さで、種という形にして遠くまで運ぶ。

 多分、感覚的なシステムとか、身体やホルモンのシステムが違うんでしょうね。 それ故、すごく大きな仕事が出来る力になる。

___きっと今の時代は、着陸地点を求めてるのかも知れないですね。 運ばれた種が着陸して、母性的なエネルギーでそこからまた新しい次の芽が開いていくという。

 宇宙船に例えるとしたら、外からエネルギーを入れないと走らない宇宙船だったのが 自分の中で燃料を創り出せるタイプに変わる時なんじゃないかな。

___環境問題も、きっと突破口はその辺ですね。

 そうだと思う。外側から入れて外のものを食べ尽すというスタイルじゃなくて、自分の内側のエンジンや燃料が働いて循環していくシステムになっていくんじゃないかな、人間も。
 
___それは、気づけばできるでしょうか?

 もちろんです! 本来、そうした方が、たぶん気持ちイイ。
 初めて自転車に乗るときみたいなんだと思う。最初は乗り方が分からなくて転んだりするけど、乗ったら「ナンだ、こんな簡単♪」って感じ。

___人類が初めて二本足で歩いた瞬間もそうだったかも知れないですね。きっと周りはびっくりしただろうし。

 赤ちゃんが歩く時、どうして歩きたいと思うかと言うと、お母さんが喜ぶからじゃなくて、 別な目線で見られるとか 好奇心の方がメインなんですって。ハイハイで床に近い目線だったのが、ちょっと高い所から見ると世界が広がる。

___自発的な動機なんですね。

 例えば好きなぬいぐるみがあって、そこに行くまでに、今までのハイハイで行った方が絶対早く取れるのに、 あえて難しい作業なのに立って行こうとする。 もちろん、 お母さんが喜んだ方が早くマスターするらしいんだけど。
 だから勇気あるんだよ!やっぱり。未知の方へ、本能が自然とかりたてる。

___勇気、ありますよねぇ!しかも、そういうことに気づくというのは、プログラムされたかのような奇跡ですよね。

 うんうん、奇跡!
 勇気はね、プログラムされてるんだよね。誰にも、もれなく!(笑)選ばれた人だけが持つものではなくってね!



[伊東 知子 さん / プロフィール]

神奈川県真鶴町『風にかえるアトリエ』にて、「目には見えないけど つながってる」をテーマにインスピレーション発信中。
作品づくりの傍ら、各地で作品展を開催。創造的インスピレーションを活かして、アートワークセッションやヒーリングセッションも行う。
(1965年) 信州・北アルプスの麓で生まれ育つ
(1986年) アマチュア劇団入団。みんなでひとつのものを創り上げる喜びを知る
(1990年〜) インドへ渡り、染織を学ぶ
(1994年) 文化庁芸術研修生として舞台衣裳を学び、舞台衣裳家として独立
(1997年) 天然石や自然素材に魅了され、創作ジュエリーをつくり始める
 ビジョン心理学と出会い、「アート・ワークショップ」をライフワークとしてスタート
(2001年) 神奈川県真鶴町に、『風にかえるアトリエ』オープン
 
18:00:00 | milkyshadows | |
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