Complete text -- "「いのち」の痕跡"

06 July

「いのち」の痕跡

artist file "tanebito" #19 [3/3] 
木村 正宏 さん(がんこ本舗代表)

「エコ」とか、ちゃんちゃら可笑しいですよ。
人間っていうものが主役で出て来ている言葉ですよね。すり替えてるじゃないですか。


 「エコ」とか、ちゃんちゃら可笑しいですよ。恥ずかしいですよね。地球に優しいって、人の首を締めそうになりますよね。人間っていうものが主役で出て来ている言葉ですよね。すり替えてるじゃないですか、「地球の為に」なんて。
 地球は人なんか望んでません!(笑)いなくても大丈夫です。ちゃんと太陽が燃え尽きるまで、まだ長い年月を積み重ねることが出来る訳です。今現在の頂点である、恐竜に変わる人間に対して、それほど過度の期待を、地球という星は持っていません!(笑)「優しくなんかしなくてイイ!」って地球は言っているはずです。
 「優しくしてちょうだいよ」って言ってるのは人間の方だから。男と女もそうだけど、優しくして欲しかったら虐めちゃいけないし、拗ねた態度とってもいけないし、自分の心を素直に表現することだよね。当たり前のことなんですよ。
 科学/サイエンスが発達する中で、人間がいろんなものを作り出したと思っているけど、全部そこらにあるものをくっ付け直して作ったものでしかないので、これ全部地球の産物なんです。もちろん製品という形ではあり得ないけど、化学的というか工業的というか、人間が作り出したものは必ず自然界のどこかで、いろんな反応の中で、生まれる可能性を秘めたものなんです。それが起きる頻度が非常に低いから、例えばこういうプラスチックというようなマテリアルは生まれていないだけなんです。金や銀や銅や鉄、そういった素材であり化合物でありといったものは生まれているけれど、石油の化合物はあまり生まれていなかったというだけで、自然界でも起こり得ます。エネルギーの交換が成り立った時には、化合物として別の物質になって行くということはいくらでもあることなんです。

___どうしても人間のライフスケールで見てしまいますからね。

 意味ないですから、俺はあんまり考えない。だって、明日のことは誰も知らないし。みんな死ぬような目にあったことがないから、有難味が分からないんじゃないですかね。自分っていうものの有難味が。生かされているだけだ、って。
 だから、山に登ったりしたのが良かったですね。

___そう言えば、凄い所に登ったことがあるそうですね。日本人初登頂というような山だったそうですが。

 それ、でもね、俺、地図読めないから着いて行っただけなのよ。(笑)自分がいる所よりも高い所があったら登ってみたくなるから行くだけ。
 自分が行ったのは、インドからインドヒマラヤを登ったの。最初に登ったのは、ガンジス川の源流の山なの。ガンゴトリっていう修行僧がいっぱいいる村があって、そこが最終の村なんですけど、そこから奥地に入って行くと聖なるガンガーの水が流れ落ちる山があって、それがガンゴトリ峰と呼ばれている山なんです。
 その次にムルキラに登って、そっちの方が有名ですよね。ムルキラは、ヒマラヤの要塞っていう意味なんです。難攻不落を誇っていた、とっても難しい山なんですけど、知らなかったの。(笑)全然知らないで着いて行った。だって海外に行けるだけで嬉しいじゃない。(笑)

___(笑)標高はどのくらいなんですか?

 6500mくらいですね。標高的には大したことないんですよ。7000mを超えない限りは、常時酸素ボンベを使うほどには酸素の量が減らないので。
 顔が、自分の感覚で言うと、2倍に膨れ上がった状態になるの。後は、酸素が圧倒的に少なくなって、だいたい4500mくらいで平地の1/2くらい、7000m超えると1/3になるの。だから、幻覚を見るなんて当たり前ですよ。思考能力は全部奪われるから、国内のトレーニングで自分の細胞の中に全ての動きを徹底して叩き込む。無意識で出来るように。車の運転って無意識でやるでしょ? 一緒です。
 後は「登りたい」という意志ですよね。それと、目的は登って下りてくるということだから、常に引き返す勇気が必要。「ここまで来た。あと50mで頂上だ」という時に、「いや、ここまでにして食糧だけ山に残して一旦下りて、休養をとってから行こう」って。チャンスがが今なのか今じゃないのか、常に選択していかなくちゃいけない。何故ならば、酸素の薄い所に居たらどんどん思考能力がなくなって生命の危険度が上がって行くので、長く留まれない。
 50mがあと一日かかると思ったら引き返す勇気が必要なんですけど、引き返さなかったことがあるんですよ。ムルキラの時でした。隊長が「行こうよ」って、引き返さなかったの。そこで自分は立ち止まって、上に進まなかったんですけど、そしたら、40mあるロープがシューって伸びて行くんですよ。もう、墜ちたのが分かるんですよ。こっちには岩が落ちてこなかったので、反対側に墜ちたんです。宙吊りになったんです。岩の角でロープが切れたら命が終いですから、ゆっくりブレーキをかけながら止まった。これは救出に行くしかない。反応があるかどうかホイッスルを吹いてみたり、手だてを講じてみたんですけど、ロープは伸びもしなければ弛みもしない。いつまでもいたって全員が死んでしまうから、もう行くしかない。で、自分が行って、気絶しているのを引っ張りあげた。

___生きてらしたんですね。

 生きてました。両足骨折で、宙ぶらりんになってました。登っていた5mくらいの岩が、それごと外れて。
 テクニックがすごくあった人なんだけど、判断が鈍ってたんだと思いますよ。あそこでは行く必要がなかった。でも、はやる気持ちは抑えられなかったんだなぁ、って。しかも、どんな山か本人は選んで行っているからね。こっちは知らないから。(笑)

いろんな体験してもらいたいねぇ。チャンス与えたいよねぇ。
まだ始まったばかりですから。


___そういう体験は、どんな風に反映しているんですか?

 分かりやすいのは、まだ発売していませんが、この魚の形の洗濯板です。俺、魚好きだから何でもお魚の形してると嬉しいの。

___それで魚型の洗濯板を作ったんですか(笑)

 そうそう。でもね、これ子育ての道具なんです。

___子育て?

 うん、俺にとってはね。これをお風呂場に置いてもらって、親子で遊んでもらいたいの。洗濯板として遊ぶんじゃなくて、浮かべたりして。
 そうして遊んだうえで、一緒に入ってるお父さんやお母さんが靴下やパンツを子どもの前で洗えば「何やってるの?」って。子どもは真似したがりだから「じゃボクもやる」って。そうしてその時に初めて靴下とかの形を覚えて行く。
 まぁ、好奇心だねぇ。知らないことを知るって面白いじゃん。「昔はこれを全部手でやっていた」って話になれば洗濯機の有難味も分かるかもしれないし、手でやればキレイになるって分かれば考えるようになる。だって、炊飯器がなかったら米が炊けないと思ってる子、多いんだからね。鍋が無くたって、竹があれば竹に入れて火に炙って炊けば香りが良くて、また面白いし。
 いろんな体験してもらいたいねぇ。チャンス与えたいよねぇ。

___そうしたことは、新しいことではないですよね。20世紀では忘れられていただけで。

 20世紀で忘れられ、21世紀ではもっと希薄になってしまった。

___どんどん希薄になって行ってしまうんでしょうか?

 いやいや。まだ始まったばかりですから。
 そういうところからじゃないと、発想は生まれて来ないよ。

自分が創造できないものは、残した方が良いに決まってる。
だから、生きた痕跡を残さず死にたいよね。


 一つ、みんなに提案があって。
 お腹の中に命を授かった瞬間から、父ちゃんは「お前の為に頑張れるから、それだけで良い」、母ちゃんも「お前がいてくれるから私は頑張れるのよ」って。その言葉だけをずっと繰り返してれば、それだけで良い。生まれてからも。
 子どもは、成長するにしたがって「自分はなんでここに生まれて来たのか?」「なんでこの家だったのか?」「なんでこの国だったのか?」って考える必要は何にもないのよ。自分はこの男とこの女に必要とされたからここに存在する。もうそれだけ。存在理由は。
 「何になればいいだろう?」「何をすれば良いだろう?」なんて関係ない。とにかく「お前がいるから俺は生きてるんだよ」って親が子に言う。そういう風に育てて行けば、そのうち戦争も国境も飢えも無い世の中を作れるんじゃないかって俺は思う。
 こんなシンプルなことで世の中を変えられる。そう思わない?(笑)

___親でないと分からない気持ちかも知れませんね。

 そうかもね。3代くらいかけようよ。参加者募集中。(笑)
 自分がそっちの方へ向いてるから、大人相手は鬱陶しいよね。何が「地球に優しい」だの「環境に良い」だとか、本当に考えてもない癖に。

___たしかに「エコ」ということがブランドのようになってしまっていますね。そのレッテルを貼ると売れてしまう。

 また、「エコ」と言わなければ反社会的というような風潮まで出来上がりつつある。ウチの会社も「エコ」の範疇に入れられるのが、俺は嫌で仕様がないんだけどね。

___そうなんですか?

 だって、当たり前のことをやってるだけだもの。自分が滅んでも、自分が目にした自然とか空気感とか残ってて欲しいじゃん。自分が創造できないものは、残した方が良いに決まってる。
 だから、生きた痕跡を残さず死にたいよね。(笑)それが俺にとって美学とか美意識ということになってるね。

___痕跡を残さない、ということは「美しい」と?

 美しいってことでしょ。
 
___私自身も今の時点で辿り着いた結論は、「美しさ」とはスタイルではなくてシステムだと思っています。つまり、私たちはそもそも「美しさ」の内側にいるんじゃないのか、って。

 何を持って「美しい」という言葉を使い始めたのか。それは何か理由があるはずなんです。
 生命が誕生して、光を感じることが出来るようになって、夜と昼が分かるようになって、それからだんだん目で見えるようになって訳。で、生命は初めて「見た」時のものを記憶してる訳。それを「美しい」ということの基準に置いているのよ。鳥とかって、生まれた時にオッパイをくれた人のことをお母さんと思うじゃない。それと同じで、自分たちにとって母だったものは全て「美しい」の対象になって行くんだよね。
 だから、過去の状況の内側でしか、自分たちはない。それを超えることはないのよ。

___なるほど。だから私たちは「宇宙」や「自然」に何かを感じるのですね。

 そうそうそう。でなきゃ、それを「美しい」とは言わないと思う。
 違う星の人が、地球を美しいって言うか分かんないじゃん。

___「科学の探究」というのは、まさに「美の追求」ということなんですね。

 完璧にそうよ。そこに成り立っている法則っていうのは、足すこともなく引くこともない「まさにこれである」というものしか存在しない。だから、数学や物理学というものは、もうこの上もない「美」ですよ。もの凄い美しい!
 だから、ものづくりするのは「美の追求」になっている。洗剤だって、普通の会社だったら、お皿に付いた汚れや襟に付いた汚れを「落としなさい」と言われて研究する。汚れを落としてあげれば売れるんだから、って。所詮その程度。その先は考えられていない。自分にとっては、そのお皿や襟をキレイにした後の水と“汚れチャン”、俺にとっては“汚れ”なんて呼び捨てに出来るものじゃないのよ(笑)、これを幸せにしないといけない。
 だって、さっきまで「美味い」と言って食べていて、残った“焼き肉のたれチャン”が、食べ終わったら“汚れ”って言われる訳。手をかけて作ったものだよ。調合するっていうことも大変だし、その前の、素材を育てたのも人間です。で、食べ物を本当に育ててくれたのは「土」ですよ。
 俺たちは地球の生命体だから、地球を食べなきゃ生きて行けない。でも、土はそのままじゃ食べられない。それで、植物という体を借りて、食べやすい形で「土」を食べている。で、自分が戻れば良い訳です。それで痕跡が消える。繋がって行くでしょ?

___そうか! 凄い繋がりですね。

 肉を食べるのも、植物を食べて育ったものを頂くことによって、植物からは摂り難いものを“お肉さん”から頂く。そういう連鎖だから。

___そう考えると、私たちの生活はいろいろなことをブツ切りにしちゃっていますね。

 相当してるね。
 切るのは美容室で髪の毛くらいにしておかないとさぁ。(笑)


20:00:00 | milkyshadows | |
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