Archive for August 2007
26 August
真剣に生きていれば、「エコ」は勝手について来るんです。
僕は「人」から多くを学んでいます。
そこには温度もあるし、全部リアルに伝わるから。
そこには温度もあるし、全部リアルに伝わるから。
___ 『ES』というフリーマガジンを発行して、啓蒙活動をなさっています。とてもセンスの良い編集ですね。
ありがとうございます。
年に3回の発行で、7月のvol.9でちょうど3年になります。
___こうした活動をオーガナイズするのは大変なことですが、どうやってネットワークを築いてきたのですか?
最初は知り合いを集めたんです。26歳の時でしたから、人脈なんて知れてますから。
時間の無い中、飲み会のような形で集まってもらって「地域の新聞のような物を作ろうと思っている」と言って、15人くらいでミーティングを開いたんです。グラフィックのデザイナーがその中にいたり、自分は何が出来るだろうと考える人がいたりして、人に頼むことと自分でやらなくちゃいけないことを見極めて、vol.1は16ページでCDサイズのものを3000部作りました。
___資金はどうなさったんですか?
知合いに頼んで広告主さんを探して、「紙面に広告を載せるから」と広告代を集めたんです。「これでウチの売上げが伸びるとは思ってないけど、ナオヤにだったら払ってやる。」という感じでした。
それはそうだと思います。3000部では宣伝効果も知れてるし、実績もないし。
でも、そこに投資してくれる方が徐々に増えて、今では10,000部の発行で、先方から問合せを頂くようになってきました。
___そういう方々は、ナオヤさんのどんな所を買ってくれたんでしょう?
ただ単に、テンションが高くて妙に真直ぐだったからじゃないでしょうか。(笑)
後は、こういった活動をサポートすることによって、付加価値を感じる方もいるかも知れないですね。湘南に住んで海にお世話になっている、その海に恩返しをしたいと思っている人が、この街には多いんです。
___ナオヤさんにとっては、何がモチベーションなのでしょう?
シンプルに、こういうことが好きなんだと思います。
海が好き、サーフィンが好き、というよりも「人」が好きなんです。寂しがり屋だし。(笑)
いろいろな人と知り合いたいし、人と話すことが好きなんです。人と話すことで、自分が成長できる。本を読んだり勉強したりというよりも、僕は「人」から多くを学んでいます。目と目を見て話せば、相手のことも一歩深く知ることが出来る。そこには温度もあるし、全部リアルに伝わるから。
『ES』の活動やフリーマガジンが繋ぎ役になって、いろいろな人と出逢える。その出逢いをそこでキチンと消化すれば、それだけ自分も人として大きくなっていくと思うんです。
どうせ生きるならカッコ良く生きたいし、自分らしく生きたい。そういう自分が好きなんです。
真剣に生きていれば、「エコ」は勝手について来るんです。
___これからのビジョンは、何かイメージがありますか?
やっぱり、地域に貢献したいですね。
愛情いっぱいに育ててくれた両親に恩返ししたいし、海にも感謝したい。広告を出してサポートしてくれた方々にも恩返しをしたい。そうすると、大きなことを言うよりも「地域」なんです。
地域に根を張って、地域が潤うようなことをどんどん仕掛けて行きたいと思っています。それはもちろん「エコ」であるし、ずっと継続できるシステムであって、「自然」も喜んでくれることをやりたい。
良いバイブを届けて行きたいですね。
___伝え手として、どんなことを伝えていきたいですか?
「LIFE」なんだと思います。「生きる」。
「森羅万象」という言葉がとても好きで、自然の中でサーフィンをやっていると、全部が繋がっていることに気づくんです。今ココに在るものすべてが必要なんだ、ということが根底にありますね。英語で言うと、「be there」。
自分なりの生き様を、自分なりに伝えて行きたい。
___そのことのキーワードとして「エコ」がある。
そうですね。
___ナオヤさんにとって、「エコ」って何ですか?
今こういう時代だから盛んに叫ばれていますが、海で真剣にサーフィンしてる人たちは、そんなことみんな知っています。ゴミがあれば悲しいから、ゴミは捨てなくなるし、それを人に伝えたくなる。
要するに、「おまけ」ですね。
___「おまけ」?
真剣に生きていれば、「エコ」は勝手について来るんです。
真剣に生活をしていれば、「これ、もう一回使おう」とか「節約しよう」と思う。真剣に暮らしていれば、「これが流れて海へ行って、海で俺たち泳いで、魚を食べて、、、」って、真剣に考えて理解しようとする。
今使っている洗剤がヤバイこと、今食べている魚がどこの産地で何なのか分からなくてヤバイこと、本当は原子力がヤバイこと。。。
『エコサーファー』も、サーフィンを真剣にやっていれば、「エコ」はおまけでついて来る。自分が本当に好きで楽しんでやっているということが何かのキッカケで相手に伝われば、その瞬間に「オレも入れて!」ってなりますよね。
誰でもそうだと思うんです。人生をenjoyしてる人でなければ付いて行けないし、一緒に遊ぼうとは思わないですよね。(笑)
「ドーム」の可能性
___ドームハウスの建築は、受注でなさっているのですか?
ここ7〜8年は、多い時で年間10棟くらい建築しました。
昨年は、横浜で学童保育の為の建物を手がけました。直径10mのサッカードームで、正五角形と正六角形のパネルを組み合わせたタイプです。2棟を隣接させて、キッチンやトイレやバスなど家としての機能は片側につくって、もう片側は子どもたちのスペースとして広く空間をとりました。中はどんな区切りにも出来ます。中二階がつくれるほどの高さがありますが、ここではあえてワンルームで使っています。
___広い空間がつくれるだけでなく、天井が高いですね。
天井が高いのは気持ち良いですよ!
国産でドームハウスを組み立てているのは、僕ともう一人九州でやっておられる方と、二人だけなんです。大手の建築会社でアメリカからの輸入物を扱っているところがありますが、輸入物は価格が高いこととサイズが大雑把なものしかないのですが、ウチはバリエーションもあって細かいことも出来るし、しかも安く組み立てることが出来ます。
ただ、なかなか良さを分かってもらえなくて、まだまだ需要が低いです。
___何がドームハウスの普及を阻んでいるのでしょう?
やはり土地が狭いので、四角い土地に丸いドームを作る余裕がないのでしょう。四隅が余ってしまいますから。
今まで僕が手がけた中で一番小さいものは、3坪で直径3.8mほど。半球にしたら高さ1.8mしかないので、垂直な壁を立てて持ち上げて組み立てるんですが、やはりもう少し広い方が良いですね。
施主さんがドームをお好きであればそれでも良いんだということになりますが、直径7m以上が実用的でしょうか。
___ということは、やはり先進的な意識を持ってらっしゃる方に限られてしまう?
そうですね。
ですから、ログハウスとドームハウスとで迷ったり、途中で止めたりする方はほとんどいません。
四角い土地に対応したドームのアイデアも持っているのですが、今は開発途上です。効率が良いとか丈夫だとか、それが全てではないですし、皆さんが四角い建物に慣れてしまっていることは大きいですね。
___四角いドーム?
肉まんを二人で分けて食べる時のように、ドームを直角に分割するんです。意匠登録までは済んだので、これからそれを提案して行こうと思っています。
ドームの一番の良さは開放感ですから、四角い家でも皆が集う部分はドームにしたらいかがですか、という提案です。
___空間が丸いことは、心理的に影響が大きいでしょうね。
ドームを組み立てる時に、最後の頂点の部分は必ず僕が仕上げるのですが、その度に美しいと思うんです。僕は高所恐怖症なのですが、丸い上は大丈夫。(笑)
僕が最初に組み立てたのは四畳半に内接させたドームでしたが、その時は空間の面白さに圧倒されました。
「これだったら孫が来てくれる」と言ってブランコを取り付けた施主さんもいらっしゃいます。(笑)
___なるほど! この空間ならそういうことをしたくなります!
フリークライミングをなさっている方は、内側に上までフックを付けて登れるようにしたそうです。
京都にはライブハウスにしている所があるようです。
___音響効果も良いんですね。
そのままでは反射し過ぎてしまうのですが、それを吸音材などで少し遮れば面白いですね。
アコースティックな小さい楽器のソロ演奏には向いています。独特な反響を利用して、両端で掛け合いの演奏をするのも面白い演出ですし、周囲の壁沿いに客席を置いて中央でパフォーマンスをする設営も良いですね。
但し、大音量の演奏には向かないです。
___ドーム建築の普及のためのキャンペーンもなさっているのでしょうか?
建築ではないのですが、段ボールで模型をつくるようなワークショップはやっていました。
『メビウスの卵展』というイベントに参加してやっていたのですが、主催する自治体の予算の都合で一昨年になくなってしまいました。10年ほど続いた恒例のイベントだったのですが、残念です。
___今仕掛けてらっしゃる展開はないのですか?
いろいろ構想はあります。
「フラードーム」は、世界的にみるとアメリカ・日本・カナダ・オーストラリアに集中していて、アジアや旧共産圏には無いんですね。なぜ普及していないかを調べるところまでは行っていないのですが、むしろ日本よりドームに向く風土があると思うんです。だから、僕はそっちへ行ってみたい。
___なるほど。土地はあるし、かえって環境が過酷な場所の方が威力を発揮する。
実は、縁があってインドネシアへ行く予定だったんですが、津波があって話も流れてしまった。復興の支援も考えたんですが、ツテが無かったことと、準備が足りなかった。
パオのドーム版なども考えていますが、今は設計段階です。
19 August
海の守り方
サーフィンは、ライフスタイルなんです
___サーフィン、本当にお好きなんですね。
サーフィンは、ライフスタイルなんですよ。
海は母などと言われるけど、精神的にもリセットされるし、とにかく気持ちが良いんです。とても健康的な生活を送ることができます。
朝と夕方に波がキレイにまとまることが多いんです。風が吹かないことが多いんですね。岸の遥か沖から吹いてくる風によって波はつくられ、今度は岸から海に向かって吹く風(オフショア)が吹き始めると波の表面がキレイに整えられ、サーファーにとって最高の波になるんです。でも、あまりにオフショアが強く吹き過ぎると、今度は波が消えちゃうんですね。だから、そのわずかな瞬間っていうのがすごくおもしろい。
波があれば、朝4時には起きちゃうし、夜は11時には寝ちゃう。4時に起きて、2〜3時間サーフィンやって、朝食をモリモリと食べて、潮臭いまま会社行って、また11時くらいに寝て・・・って、すごく健康的な生活でしょう?
次の日に波があると分かっていれば、お酒も極力飲まないし、肺活量が必要だからタバコを吸わない人が多くなっているし、体だって柔らかい方がいいからストレッチやヨーガをやったり。食事にも気をつけてベジタリアンになる人もいるし、もっとディープに入っていくとスピリチュアル的要素も入ってくる。
サーフィンをしてる時は時間がストップしていて、「瞑想」の時間だと言う人もたくさんいる。自分にとっては「内観」の時間だったりもするんです。
___今おっしゃったようなことを強く体験したのはどんな出来事でしたか?
例えば、テトラポット。 あれだけ重い石を海岸線に撒いても、大きい波がドカーンと来ると、一瞬テトラポットが宙に浮くんです。 そうするとそこに流れが出来て、人がいたら吸い込まれてしまうぐらいの流れをつくる。だから、テトラポット周辺で起こった事故は、テトラポットの下に死体が入っていたりすることがよくあるんです。
そういうことを、サーファーは身体で知っているんです。「自然」を人間の力でねじ伏せることは出来ない。俺たち人間はすごくちっぽけだっていうことを分かっている。
だからこそ、「自然」に対しては謙虚に、共存したいんだったら無理なこともしないし、危険なこともしない。今日は無理だと思ったらやらないし、それは自己責任ですから。
サンフランシスコで『エコサーファー』を立ち上げました
___海外でステイされたことがあるそうですね。
5年間の学生ビザを取って、アメリカに行きました。最初はLA、それからハワイ。
英語の学校に入って、最初の4ヶ月くらいは一生懸命勉強しました。早く学校に行って予習して、その後に図書館へ行って、1日15時間くらい英語の勉強をしたんだけど、周りは日本人ばかりで勉強はつまらないし、英語も全く上達しなかった。
それだったら行きたい所へどんどん行ってしまおうと思って、たまたまインターネットでWWOOF(ウーフ) という非営利の組織を見つけたんです。それは、農園や農場でマンパワーを募集している人たちと、体力はあるけどお金がなくて、でもいろいろなことを手伝いたい、泊まる所とゴハンは提供してもらいたい、という人たちを繋げるシステムで、そのグループに約20$払うと、そういうマンパワーを欲しがっている農園のリストが送られてくるんですよ。
それで、カリフォルニア州のリストをもらって見てみると、ソーラーパネルで、お水は雨水を貯めて、環境にやさしい有機野菜をつくっている、という農園があったんです。そこは、サンフランシスコと言っても本当に田舎で、それこそ隣の家まで車で10分というような場所。もう日本人なんか絶対にいない。
そこへ行ってその人たちと生活をしながら、朝早く起きて水やりをしたり、土を混ぜて苗を植えたり、トラクターで開墾したり、ソーラーシステムの電池を交換したり、あっという間に1ヶ月が過ぎた。そこですごく英語が上達したんです。そこにはもうアメリカ人しかいないので。
実は、そのサンフランシスコで『エコサーファー』というグループを立ち上げました。僕のヴィジョンを農家の人たちも知っていたし、協力してくれていたので、心良く「旅立っていけ」ということで、今度はハワイ州のリストをゲットしたんです。ホストがサーファー、海まで歩いて行ける、という条件で探しました。それでハワイ島へ行って、そこから毎日サーフィンです。
ハワイ島では、子どもたちが普通に海でサーフィンするんです
___ハワイはサーフィンのメッカですものね。
ハワイ島でスゴイなぁと思ったことは、子どもたちが普通に海でサーフィンするんですよ。とにかく学校が終わったら、親の車で海まで来るんです。 海まで遠い子もいるから、親が車で連れて来て下ろして行くんですよ。「何時に迎えに来るから」って言って。
その時間は子ども達が海で遊ぶ時間だから、大人たちはサーフィンをやらないようにしている。 ほとんどの子がサーフィンかボディボードをやる。
でも、そんな時でもアメリカのメインランドから来たサーファーが彼らの波を取ったりすることがある。それをローカルのサーファーが見つけると、「上がれ!」と。「別にケンカするワケじゃなくて、とにかく上がれ」と。
「なんで上がらせたかというと、ここの海はオマエだけのものじゃなくて、子ども達のものでもあり、皆のものなんだ。この子ども達はここの海が好きで、この時間帯だけは特に子ども達に海を満喫させてあげたいから、申し訳ないけど上がって、来るならまた明日の朝とか、そういう時間帯に来てくれ」と言う。そういう守り方をしているローカルなんです。
それが凄くカッコ良くて!僕はこういうことが知りたかったんだな、と思いました。
まさにビーチの守り方のお手本になりました。もちろんゴミも拾うけど、本当のシーンを見れた気がした。だからみんなスゴク笑顔だし、空間のバイブが良いんだなぁ、というのを感じました。
___その方たちはオーガナイズされて行動しているの?
そうではないです。
でもそこにはボスがいて、「俺が最終的には出て行く」という人がやっぱりいる。見た目はもう、体中にハワイの伝統的なタトゥーが入っていて、細長いサングラスをかけて、上半身裸で、髪の毛も長くてガタイが良くて、近づき難いオーラを出してるんだけど、でもサングラスを外すと細い目でニコニコ笑って、子どもたちに「サーフィンしろ、サーフィンしろ」って。
そういう場所で、僕も半年サーフィンやらせてもらって、一緒に大会に出たり、一緒にゴミ拾いしたり、誰かの誕生日には必ず呼んでもらって、ゴハンを一緒に食べたりしたんです。そういういろいろな経験が今の『エコサーファー』には生きているんです。
(つづく)
ドームハウス
「四畳半内接フラー・ドーム」
___最初は、四畳半の部屋の中に「フラー・ドーム」を作ったそうですね。
アマチュアバンドやっていたので、友達の庭にログハウスでスタジオを作ってしまおう、ということが始まりでした。
『ウッディライフ』とかアウトドアの本を読んでいたら、たまたまそこに「フラー・ドーム」が出ていて、面白いなと思って画用紙で模型を作ったんです。そうしたら、どうしても中に入ってみたくなってしまった。(笑)
「これのデカイのを作れば、それは家だしスタジオじゃないか」って思って、真四角の四畳半にピッタリ収まるように逆算して、ケント紙で三角形を百数十枚使って作ったんです。「四畳半内接フラー・ドーム」ですね。
それで、内側へ入って、人生変わっちゃった。サラリーマンやってる場合じゃない、って。(笑)
___それほど衝撃的だったのですね。
家を建てるというのは、四角い物の集合だとしか思ってなかった。それが三角形で出来る、柱が要らない。最少の材料で、広い空間で、しかも丈夫。
それ以上に、僕は音楽をやっていたので、内部にスピーカーをセットしたら、今までと全く違う感覚があった。スピーカーと自分の位置の組み合わせを偶然見つて、ビックリするような音像を体験したんです。
まだデジタルの時代ではなかったので、テープに録った音楽にはノイズがあったんですが、それが相殺されちゃうんです。しかも、音源の位置が分からなくなって、空中にいたままヘッドホンをしたような感覚になる。
「これはスゴイ!」とビックリして、それから半年はそこへ籠ってた。(笑)
無謀にもそれから一年後に会社を辞めて、建築は全くの素人だったのですが、最初は失敗もしましたが3年目くらいで工法を確立しました。
その頃、アメリカにドーム建材のメーカーが2社あって、キットを日本で輸入していたんです。僕もそれを買って一棟建てようと思ったんですが、すごく高い値段だった。本来は最少資源で作れるものなのに、それはおかしいと思って「じゃぁ自分で作ろう」となったんです。
___当時、日本ではドーム建築を手がけている会社はなかったんですか?
まだインターネットのない時代でしたから雑誌などで調べたら、村上さんという方がいらして、その方が『ドームプロジェクト』という名前で8棟ほどドームを建てていたんですが、辞めて全く違う分野に行ってしまった。
その『ドームプロジェクト』という名前が良かったので、僕が名前だけ引き継いで、その後100棟ほど組み立てました。
セルフビルドのエコ建築
___小林さんの組み立てたドームで、実際に暮らしている方がいらっしゃるんですね。
最初の2〜3年は、ほとんど別荘ばかりでした。それも、フラーということで惹かれて建てた方ばかり。キットだけ渡してセルフビルドで組み立てるというワケには行かない人が多かったので、僕も現地に行って建築を手伝いました。
そのうち建築会社と組むようになって、建築を指導したり、自宅としての需要も増えてきました。
___ドームハウスは魅力的ですが、土地が必要ですね。
まぁ、そうですね。土地は必要です。(笑)
ただ、同じ容積で較べると建築費がかなり安く済む。
___建材が少なくて済む、ということですね。
普通に考えれば、一つの空間といえば12畳くらいが限界でしょう。それ以上になると、柱や梁や壁が必要になる。ドームならば、僕が手がけたうちの最大は、直径13.5m。それでも柱が要らない。とにかく、空間が広い。
しかも、組み立てはプロの人がいなくても2日くらいで出来てしまう。
___内部の空間が丸いということで、居住性や居心地はいかがでしょう?
よく「丸いと不便ではないか」と言われますが、壁に家具を密着させる必要はないんです。家具で間仕切りにする、という発想にしてもらえればいい。
それから、ほとんどの場合、中二階になさいますね。土地が大きい場合は全二階にして、上は本当のワンルーム。
___空気の対流にも都合が良い。
四角い家だと、四隅に空気が溜まるんです。長い間には、四隅からカビが生えてくる。
ドームでは、温かい空気が上で冷やされて壁沿いに降りてくる。頂点にシーリング・ファンを付けるだけで、冷暖房は物凄く効率が良い。
___エコな建築ですね!
エコです。
そもそもフラーの「最少資源で最大効果」という考えに僕は惹かれたんです。三角形のパネルを組み合わせるというのも、全部が筋交いになるわけですから、これほど合理的なことはない。
フラー研究者と出逢う
___フラーについてはかなり研究されたんですか?
英語の本を読める訳ではないのですが、面白い出逢いがあったんです。
フラーの晩年に、2年間助手をしていた梶川泰司さんという方がいて、フラーが亡くなった後、帰国して広島大学でフラーの研究所を持っていたんです。それが引っ越すという時に、たまたま縁があって、小田原で研究室を構えていたんです。その梶川さんが南足柄の丸太の森でワークショップをなさる、というのを偶然に新聞で見て、すぐに会いにいって自己紹介したんです。その頃ちょうど、寄(やどろぎ)の山の中にドームを作っていたのでお連れしたら、「一緒に仕事をやらないか」と誘われた。
梶川さんは東京でドームの会社を興そうとしていたんですね。ところが、実際に建築の知識のある人がいなかった。梶川さんは日本人で唯一フラーと懇意にしていた方ですから、非常に名誉のあるお誘いだったんですが、僕は組織に入るのが嫌だったので、木造ドームのキットを供給するという形にしたんです。それで、2年間ほど『ドームプロジェクト』の名前を伏せて、梶川さんの『デザインサイエンス社』を通して仕事していました。
なんと隣町にそんな人が越してくるなんて、奇跡ですよね。(笑)
(つづく)
12 August
「ビーチマネー」
「ビーチマネー」
___ 「ビーチマネー」というのは、どんなプロジェクトなんですか?
海岸に行くと、どこの海岸でもビーチグラスが落ちているんです。
ビーチグラスというのは、もともとはビールやワインのビンだったりしたものが川の上流で捨てられたりして、最終的に海まで流れる間に砕けて、長い時間かけて砂や石にもまれて角が丸まって宝石みたいになったものです。このキラキラした宝石のようなものが湘南のイメージと合うと思って、これを何かに使えないか、ということだったんです。
ビーチグラスは結局ガラスですから、拾うことは海をキレイにすることになるでしょ? だから、たとえばフリーマーケットの時にお客さんが持って来てくれたらサービスをしたりディスカウントしてあげようか、ということが第一歩でした。
この第一歩の大きな力になってくれたのは、今僕が勤めている「がんこ本舗」という会社なんです。社長がとてもユニークな方で「じゃあ、ビーチグラスが使える1店舗目になっちゃおう!」って言ってくれたんですね。
それで、きっと他のお店でも、探せばきっと協力店が増えると思って、自分から営業に行ったんです。今では湘南中の50店舗のお店が「ウチも協力するよ」と行ってくれて、ビーチグラスを持って行ったら何かしらのサービスやディスカウントをしてくれるシステムが確立し始めてるんです。
___面白いアイデアですね!
中には宝物にしたいほどキレイなビーチグラスもあるんです。
これを、例えば僕がすぐそこのアイスクリーム屋さんに持って行って、一つ渡すと300円のアイスにチョコチップをトッピングしてくれるんです。今度は、アイスクリーム屋さんにビーチグラスがどんどん貯まって、オーナーが「これはキレイだから取っておこう。でも、これはよくある色だから使っちゃおう」と、50店舗のリストを見て「あ、今日はパンが食べたいな」とパン屋さんへ行って、それが今度はコロッケパンに化けちゃう。そうして、パン屋さんのオーナーは「飲みに行こう」と言ってバーへ行って、そこでも使える、と。
今の時代、ディスカウントストアへ行って安く買って、コミュニケーションなし。だから商店街が元気無くなっちゃってきているけど、この「ビーチマネー」があることで、お店とお店を繋ぐ役割を持っていて、地域活性に繋がる。
本当にその地域が好きだったら、商店街を盛り上げたいと思うし、理にかなったシステムが出来たと思っています。
「海」を感じて欲しい
___ビーチグラスを拾うと同時にゴミも拾おうよ、ということですね。
そうそうそう! それが大事なこと!
ただ「お金として使えるから拾いに行こうよ」じゃなくて、そこで「海」を感じて欲しいんです。
___そこが、エコサーファーのコンセプト「ゴミを捨てないような精神を持った人を増やす」ということに繋がる。
結局、モラルだと思うんです。
モラルがあれば、ゴミを捨てないのは当たり前なんだけど、モラルが無ければ無いで育んでいけばいい。じゃぁどうしよう、と言った時に、「ビーチマネー」のような仕組みがあれば、人が海へ行くキッカケになるだろうと思うんです。
最初は単純に「お金だから拾いに行こう」で良いんです。海に行けば下を見るので、「あぁ、こんな物が落ちてるんだ」とか「思ったより砂がサラサラしてる」とか「温かい」とか、意識は無くても必ずお土産がついてくるハズなんです。そこから、何か変わるんじゃないか、と言うか、気づくんじゃないか、って。
「ゴミ拾えよ」って上から言うんじゃなくて、それぞれの感性で感じてください、動いてください、ということです。
そこに波が立つ瞬間
___小田原の海だと、酒匂川の河口で流木を拾ったりする人がいます。
あぁ、あの辺もサーフィン盛んですよねぇ。
___サーファーの方たちが言う「ローカル」って、「縄張り」というような意味なんですか?
例えば、スノーボードだったら雪さえあればいつでも出来る。他のスポーツでも、テニスや野球はいつでも出来る。でも、サーフィンは海がなくちゃ出来ないし、海があっても波がなければ出来ない。その波だって、いつ出てくるか分からない。
それで、自分たちの「地元の海」というのがそれぞれあって、そこに波が立つ瞬間にいろいろな人がいっぱい来てしまうと、自分は乗れない。
地域の人たちをリスペクトする人だったら良いのですが、いきなり入って波を取ってしまったら、やっぱり地元の人は良い顔をしないです。地域をリスペクトすることは、他のスポーツでも何でも同じだと思います。
本当にみんな、自分の身近にある地元の海をキチガイのように愛してるんです。(笑)本当に愛していれば海を守っているだろうし、ゴミだって決められた日にやるんじゃなくて、行って落ちてれば拾うだろうし、そこでサーファーが上手に伝えられたら最高ですね。
どこの海も、それぞれの色があっていいと思います。それでいてリスペクトがあれば、ケンカすることなく上手く循環できると思うんです。
___堀さんのビーチクリーン・キャンペーンは、最初から順調だったんですか?
いや、最初はついつい順番を間違えてしまって、順調ではなかったです。
Eco Surfer主催でゴミ拾いを始めたんですが、ローカルの人が良い顔をしていないことに気づいたんです。もともと住んでいた人たちが昔から海を守ってきたのに、後からノコノコ来て我が物顔でやっているように感じたのでしょう。正直、ゴミを拾って怒られるなんて、やめてやろうと思ったりもしました。でも諦めずに、今はその人たちと一緒にやらさせてもらっています。
続けることは難しいけど、だんだんと周りからも認めてもらえるようになって、それが大きな力になっています。
(つづく)