Archive for July 2008

27 July

「風にかえる」

artist file "tanebito" [Archives #1] 
伊東 知子 さん(創作ジュエリー作家 / 風にかえるアトリエ

よく「石がすごく生き生きしている」と言われますが、
本当に生き物を扱うように扱っていて、
たぶんお花と同じ様にひとつの命をもって生きてるんじゃないかなって思っています。


___どうして自然石を扱うようになったんですか?

 もともと 天然素材の絹とか麻とかすごく好きでした。自然がつくった造形の中に人間が努力しても到底及ばないような素晴らしい姿を見た時に、あぁもう自然の力の方がスゴイんだって思って。
 そしたらもう、半分は自然に助けてもらいながら、素晴らしい造形の原石を使って創作活動をやっていった方がいいんじゃないかなって。

___きっかけがあったんですか?

 自然石を使ったネックレスを作るお教室があるからと友人に誘われて、そこで教えてもらったのがきっかけです。当時は今みたいに石を売ってるお店が少なくて、だけどその人の家にはいっぱい石が並んでいて、「あぁこんなのあるんだ。いろいろあるんだ」って思いながらひとつ自分のを作って。
 そしたら何故かそのネックレスを着けてる時だけ無性に悲しくなって涙が出たりとかして、「あっ、石って何かあるかも」と思って。それが石の事を詳しく知りたいと思ったきっかけですね。何か心と関係してる気がした。
 今もそうなんですけど、私が図書館みたいに満遍なくすべての石を揃えるっていう必要はなくて、自分がいいなと思う石を仕入れてきたら、それを求めてくる人と私が出会うという流れです。
 よく「石がすごく生き生きしている」と言われますが、本当に生き物を扱うように扱っていて、たぶんお花と同じ様にひとつの命をもって生きてるんじゃないかなって思っています。結晶するのに百年単位で何ミリって結晶する石もあれば、鍾乳洞みたいにどんどん成長する石もあって、やっぱり人間の目に見えないレベルで成長してると思うんですよね。ある時色が変わったり、あるお客様が来ると急に綺麗になったりとか、そういうのを見ているとやっぱり「あぁ、生きてる!」って。

___だから「パワーストーン」と言う?

 やっぱり生き物同士だから、反応するのでしょう。
 人間同士でも、素敵な人と出会うと心がすごく高揚したり、自分がパワーをもらえたって思う様な事がありますが、それと同じようなことだと思います。
 たぶん一番は、美しいものと出逢ってそれを自分が手に入れる事ができて、それを見た時に「あぁ美しい、綺麗だなぁ」と思う事が、すごく魂の栄養なのかなって気がしています。だから、あんまり、パワーストーンの種類とか作用とかはブッ飛んじゃって「あぁキレイ♪」ってウットリするのが、いちばん心が満たされる事なんじゃないかなと思います。
 私が表だと思って飾っているものを、お客さまは反対側が美しいと思って、帰りに反対側を表にして置いていったりとか・・(笑)それもアリだなと思う。あぁこんな美しさを発見した、って。
 私に合う石を探してくださいっていう事もすごく多くて、そういう出逢いをプロデュースすることも私の仕事でもあって、それは楽しい。魔法みたいで。(笑)

「人間にとって一番身近な風は、自分の呼吸だよ」って言われて、
この空とこの海とこの原生林の自然のリズムに戻りたいって思った。


___どうして真鶴だったんですか?

 真鶴に遊びに来てるうちに、「あぁ、この空とこの海を毎日見ていたら、私の作風はもっと変わるかも知れない」と思って、新しい自分を見たくなったんです。

___土地と作品の関係性って面白いですね。

 舞台のときも、いろんな人の舞台を観察して、いちばん大事なのは湿度かなって。例えば『アラジンの魔法使い」っていう砂漠のお芝居を観る時に、その乾いた風を衣装で表現できるか、装置として表現できるか、って。 お客さんがそれを感じることができるとすごく良いなって思った。

___肌触りですね。

 はい。空気感。感じる世界。
 この話で思いついたのは、私の石が「生きてるね」ってよく言われるのは、何か命っぽい呼吸してるような風を感じるのかも知れない。乾燥したただの石じゃなくて。

___だから『風にかえる』?

 それは後づけでね。そうかも知れない。
 この場所の名前を考えているときに、原生林の近くの海を見下ろせる所に座っていたら、凄く大きな風が吹いて、高いところにある楠の葉っぱがフワァって落ちてきて、一枚一枚がくるくるくるくる回りながら、目の前をヒューって横切っていたの。
 「あぁ風だぁ」って思って、『風のアリトエ』にしようかなって思った。
 その帰り道にカエルに会って、最初『風とカエルのアトリエ』にしようかと思ったんだけど、ちょっとモジッて『風にかえる』にしてみた。
 名前を『風にかえるアトリエ』にした後に、整体をやってる方に「人間にとって一番身近な風は、自分の呼吸だよ」って言われて、「あぁ風にかえるっていうのは、自分の呼吸に戻るって意味があるなぁ」って。私自身も、自分の呼吸を取り戻したくて真鶴に来たようなところもあって、なにかこの空とこの海とこの原生林の自然のリズムに、私が戻りたいってすごく思った。

___ カエルのメッセージだったんですね! カエルは、南米ペルーでは神聖な動物とされているそうですね。

 音楽をやってる人は、ゲコゲコ鳴くからか「音楽の神様」って言う人が多い。「癒しの神」と言う人もいて、カエルが鳴くと浄化の雨が降るって言う。
 たぶん、かえる、元に戻る、っていうのは癒しでもあるし浄化でもある。その象徴っぽい気もする。でも「自分の呼吸に戻る」っていうのが、今の私には一番ピンと来てるんだけど。

癒しも、その創造力の一部分ですよね。
明日の自分を創っていく力。


___海の波の回数は、人間の呼吸の周期に近いんですってね。

 日常であれほどゆっくり呼吸するのは、なかなか出来ないですよね。
 現代社会では、早く呼吸することを求められる。早足で歩くことを求められるから、その期待に応えるように、だんだん呼吸も早くなっていって、吐き出すのが少なくなって、溜まっちゃうんですね。

___ それに気づいたら、自発的に改善するコツがあるかしら?

 自分の呼吸を意識することも、ひとつのコツかな。
 私、作業中に息を止める癖があって、最近は作業が一段落したときに深呼吸するようにしてる。酸欠になればなるほど、妙にトランスに入ってくみたいなところもあって、その呼吸が作品のリズムになってくる。

___呼吸のリズムと言えば、海の波の回数が呼吸と近いから同調していくように、石にも波動があるんですよね。

 そうですね。波にさざ波があったり大きな波があったりするように、石にも、形によって色によって違ういろいろな種類のリズムがありますね。

___石に触れるといろいろな感覚を感じるということは、やっぱり人は何処かでそういうことを感じるセンサーがあるということなのでしょうか?

 情報は受け取っていると思います。意識のあるなしに関係なく。
 例えば、ゆっくりおおらかに過ごしたいのに周りの環境はそうではないという時に、ゆっくりおおらかな感覚のする石を自然に手に取っちゃう。それで、その石を握ってるとなんとなくリラックスする感じがする。

___潜在意識で先に気づいているんですね?

 はい。だから、石を直感で選んでもらうのは、今自分にどんな石が必要なのか潜在的に答えがあるからこそ、そこを手がかりに石を選んで欲しいからなんです。
 潜在的なパワーや、自分を創っていく力って、本当に凄いですね。

___ 自分を創っていく力。。

 はい。創造力。明日の自分を創っていく力。だから、癒しも、その創造力の一部分ですよね。

___たしかに「癒し」と「創造」は、そこで起こる出来事が同じドラマだと思います。

 そうなんです。
 古いものが片付いたとたんに、ドアがバーンと開いて新しいものがバーッと入ってくるのは、ほとんど同時に起きてきますよね。だから「癒す」というのはドアの前の荷物を片付けることで、片付いてドアが開けば新しい出会いやお金の流れだとかワーッと自然に入ってきちゃう。
 お金持ちになりたいとか、ビジネスを成功させたいと言うのなら、最終的に、流れを止めているドアの前の荷物を片付けなくちゃいけない羽目になる。で、片付けると新しいものが始まる。

勇気はね、プログラムされてるんだよね。誰にも、もれなく!(笑)
選ばれた人だけが持つものではなくってね!


___ところで、3年前のコラム『SoulBeauty』について聞かせてください。「そもそも“美”は、衣食住に対してどういう位置づけなんだろう?」という問いから始まったのですが、書いていていかがでしたか?

 今読み返すと、よくまとまってると思う。びっくりするくらい。
 ある石をお客さんが見つけて「あぁ綺麗」って言う時に、そのお客さんも綺麗なんですよね。石とお客さんと両方が綺麗だ、って思っていて、あのコラムでは、そういう日々感じているけど言葉になっていなかった事をまとめさせてもらったって感じです。

___書きながら気づいた事も多かったですよね。

 テーマ毎にそこから引き起こされるものもあって、「海の思想」がそうでした。それがキッカケになって、ひとつのまとまりのあるものがそこから触発されて、それが今すごく大事になっている。

___「海の思想」がピンと来たのは、どういう部分だったのですか?

 アクアマリンという、「海の女神」と呼ばれている石があるんです。
 海って何でも受け入れちゃうでしょ。その中に魚も住めば、船が行ったり来たりもしてて、ダイバーがその中を泳ぐし、大型タンカーが座礁しても、それすらも海は「どうぞ」みたいな。そういう存在って凄いと思う。川のように上から下に流れるわけでもなく、すべてを内包してる。

___すべてが繫がっている。

 たぶん空気もそうなんだと思うんだけど、地球の裏側までずっと空気だから繫がってるんだけど、あんまり実態がないから意識できない。海っていうのは、命のつながりをもっと理解しやすいかな。

___母性とも繫がりますよね。生命を育んだ海。

 そうですね。「母なる地球」って言うけど、「父なる地球」って表現はない。すべてを受け入れる、って母性っぽいですね。

___どうして「父なる地球」って言わないんでしょうね?(笑)

 ね(笑)。命を自分の中に宿す、という感覚は「母」っぽいよね。そこがとっても重要なんだと思う。
 自分の中にはヒーラーや神はいないと思っちゃうのがそもそも間違いで、自分の中に答えも、創っていく部分も、癒していく部分も、全部その力はあるんですよね。自分の命をまるごと受け入れる感覚からスタートする。

___ 例えば、宇宙船が地球から離れて遠くまで飛ぶためにそれなりの体裁を整える必要があるように、男性性っていうのは、一旦宇宙のリズムから切り離された合理性があると思う。それが良さで、種という形にして遠くまで運ぶ。

 多分、感覚的なシステムとか、身体やホルモンのシステムが違うんでしょうね。 それ故、すごく大きな仕事が出来る力になる。

___きっと今の時代は、着陸地点を求めてるのかも知れないですね。 運ばれた種が着陸して、母性的なエネルギーでそこからまた新しい次の芽が開いていくという。

 宇宙船に例えるとしたら、外からエネルギーを入れないと走らない宇宙船だったのが 自分の中で燃料を創り出せるタイプに変わる時なんじゃないかな。

___環境問題も、きっと突破口はその辺ですね。

 そうだと思う。外側から入れて外のものを食べ尽すというスタイルじゃなくて、自分の内側のエンジンや燃料が働いて循環していくシステムになっていくんじゃないかな、人間も。
 
___それは、気づけばできるでしょうか?

 もちろんです! 本来、そうした方が、たぶん気持ちイイ。
 初めて自転車に乗るときみたいなんだと思う。最初は乗り方が分からなくて転んだりするけど、乗ったら「ナンだ、こんな簡単♪」って感じ。

___人類が初めて二本足で歩いた瞬間もそうだったかも知れないですね。きっと周りはびっくりしただろうし。

 赤ちゃんが歩く時、どうして歩きたいと思うかと言うと、お母さんが喜ぶからじゃなくて、 別な目線で見られるとか 好奇心の方がメインなんですって。ハイハイで床に近い目線だったのが、ちょっと高い所から見ると世界が広がる。

___自発的な動機なんですね。

 例えば好きなぬいぐるみがあって、そこに行くまでに、今までのハイハイで行った方が絶対早く取れるのに、 あえて難しい作業なのに立って行こうとする。 もちろん、 お母さんが喜んだ方が早くマスターするらしいんだけど。
 だから勇気あるんだよ!やっぱり。未知の方へ、本能が自然とかりたてる。

___勇気、ありますよねぇ!しかも、そういうことに気づくというのは、プログラムされたかのような奇跡ですよね。

 うんうん、奇跡!
 勇気はね、プログラムされてるんだよね。誰にも、もれなく!(笑)選ばれた人だけが持つものではなくってね!



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20 July

僕らと宇宙人


1.


「宇宙人とコンタクトを取れる図形」と彼に説明されたが、
僕にはただの落書きにしか見えない。
1時間程掛かって、漸くそれが出来上がった。
グラウンドいっぱいに書かれたのは、不思議な模様だ。
「本当に来るの?」
不満げに石灰を撒く僕を見て、彼はにっこりと笑った。
「当たり前だろう。本に書いてあった」
その顔は真っ白だ。ホラー映画のメイクのようで可笑しい。
彼が爪先で引いた線を目印に、大きな袋から少しずつ石灰を撒く。
結構な重労働で、どうにも上手くいかない。
僕は額に流れる汗を両手で拭う。
徐々に気温が上がってきた。
早朝から始めたのに、太陽はもうすっかり姿を見せている。
「実はまだ、これで宇宙人と出会えた人は居ないんだ。」
彼はバスタオルで顔を拭いながらそう言った。白いのは取れていない。
「それは何処からの情報?」
「本に書いてあった」
彼ともう少しつき合いが長ければ、お前は本に書いてあれば何でも信じるのか、と責めたところだ。
「だから俺が目撃者1号だ」 
「でも、誰も会ってないんじゃ、この方法で来るかどうかもわからないんじゃないの?」
「来るに決まってる」
謎の同級生は、ぎらぎらと目を光らせながらグラウンドを見ている。
こうしていればUFOが来ると、きっと本には書いてあったのだろう。


2.


「宇宙人の目撃者第2号にならないか。」
正面からそう声を掛けられても、僕に言われたものだとわからなかった。
「おい、待てよ。何処行くんだ」
脇を擦り抜けようとした僕を、彼は慌てて呼び止めた。
「僕?」
他に誰が居るんだ、という顔をされた。昼休みの購買だ。
「嫌そうだなあ。宇宙人は嫌いか?」
「別に、そういうわけじゃないけど」
この人は何者だろう、興味は少しそそられたけれど、
危ない人に絡まれた、と苦笑いをするしかない。
「じゃあ決まり。明日の4時、グラウンド集合。ちゃんと来いよ」
彼はそれだけ言うと、踵を返して去って行った。
「待ってよ! 4時って、夕方の4時だよね?」
慌てて言葉を返したけれど、無駄な質問だったと、すぐに悟った。
だから僕は、夏休み最初の日、
朝の4時から、学校のグラウンドで石灰と格闘している。
夏の陽は、朝からでもじりじりと皮膚を焼いて行く。
宇宙人は来ない。
その、当たり前の現実から逃げ出すように、僕は立ち上がった。
「ちょっと、ジュース買ってくるよ」
無駄な時間を使った。
スポーツドリンクを2本買って戻ろうとすると、
彼が僕を呼ぶ声がした。
小走りにグラウンドへ戻って、その光景を見た途端、
僕は苦笑いをするしかなかった。
彼の横に先生が立っている。
僕の姿を見つけると、こっちへ来いと、手招きしている。
僕の口の中は、砂のように干上がり始めた。


3.


宇宙人だなんて、馬鹿な話ですよね。
先生は、僕たちの話を聞いている間中ずっと険しい顔だった。
炎天下の立ち話なんて、早く終わらせたかった。
僕も、彼も、先生も汗だくだ。
「おい、宇宙人だよ!」
僕たちの横から、声がした。
僕は彼と顔を見合わせて、声の方へ振り返った。
野球部のユニフォーム姿の生徒が、目を丸くして立っていた。
振り返った僕たちの顔を見ると、野球部は腹を抱えて笑い始めた。
清々しい程の爆笑だ。
「お前、顔が灰色だぜ。ソックリだよ、あの頭のでかい宇宙人に!」
確かに、僕たちは薄汚れた石灰が顔中に溶けて広がっていた。
偉そうな相棒は、目だけがギラギラと光って、本当に宇宙人みたいだ。
可笑しくなって、僕は吹き出した。
「ふん!お前は目撃者2号だからな」
彼はそう言って、どこまでも偉そうに、僕を指差した。


4.


「宇宙人とコンタクトを取れる図形」だなんて、
いったい彼は、どんな本を読んだんだろう。
汗と石灰にまみれて、炎天下で先生に説教をされて、
夏休みの最初の朝は、とんだ始まりだった。
「じゃあな」
道の途中で、僕たちは笑い合って別れた。
次に彼と会うのは、きっと夏休みが明けてからだろう。
ぼんやりと見上げた夏の空は、狭くて近かった。
青を取り囲むように、白い雲がそびえている。
きっと今日は、もっと暑くなるんだろう。
その時、
厚い入道雲の中から何かが飛び出した。
ハッとして振り返ると、
彼と別れたばかりの道に、人影はなかった。
彼を呼ぼうとしたけれど、口から声が出ない。
そういえば、僕は彼の名前すら知らなかった。
もしかしたら、
宇宙人目撃者の第1号は、僕だったのかも知れない。
script / 木村 静花


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15 July

ストリーミング配信が始まります

 FMおだわらは、インターネットによる番組配信を7月15日(火)から開始します。

  ⇒ サイマルラジオ http://www.simulradio.jp/

 放送局一覧から「FMおだわら」のアイコンをクリックしてください
 
 ※ サイマルラジオを視聴するためには、Windows Media Playerが必要です。


01:22:00 | milkyshadows | |

06 July

「いのち」の痕跡

artist file "tanebito" #19 [3/3] 
木村 正宏 さん(がんこ本舗代表)

「エコ」とか、ちゃんちゃら可笑しいですよ。
人間っていうものが主役で出て来ている言葉ですよね。すり替えてるじゃないですか。


 「エコ」とか、ちゃんちゃら可笑しいですよ。恥ずかしいですよね。地球に優しいって、人の首を締めそうになりますよね。人間っていうものが主役で出て来ている言葉ですよね。すり替えてるじゃないですか、「地球の為に」なんて。
 地球は人なんか望んでません!(笑)いなくても大丈夫です。ちゃんと太陽が燃え尽きるまで、まだ長い年月を積み重ねることが出来る訳です。今現在の頂点である、恐竜に変わる人間に対して、それほど過度の期待を、地球という星は持っていません!(笑)「優しくなんかしなくてイイ!」って地球は言っているはずです。
 「優しくしてちょうだいよ」って言ってるのは人間の方だから。男と女もそうだけど、優しくして欲しかったら虐めちゃいけないし、拗ねた態度とってもいけないし、自分の心を素直に表現することだよね。当たり前のことなんですよ。
 科学/サイエンスが発達する中で、人間がいろんなものを作り出したと思っているけど、全部そこらにあるものをくっ付け直して作ったものでしかないので、これ全部地球の産物なんです。もちろん製品という形ではあり得ないけど、化学的というか工業的というか、人間が作り出したものは必ず自然界のどこかで、いろんな反応の中で、生まれる可能性を秘めたものなんです。それが起きる頻度が非常に低いから、例えばこういうプラスチックというようなマテリアルは生まれていないだけなんです。金や銀や銅や鉄、そういった素材であり化合物でありといったものは生まれているけれど、石油の化合物はあまり生まれていなかったというだけで、自然界でも起こり得ます。エネルギーの交換が成り立った時には、化合物として別の物質になって行くということはいくらでもあることなんです。

___どうしても人間のライフスケールで見てしまいますからね。

 意味ないですから、俺はあんまり考えない。だって、明日のことは誰も知らないし。みんな死ぬような目にあったことがないから、有難味が分からないんじゃないですかね。自分っていうものの有難味が。生かされているだけだ、って。
 だから、山に登ったりしたのが良かったですね。

___そう言えば、凄い所に登ったことがあるそうですね。日本人初登頂というような山だったそうですが。

 それ、でもね、俺、地図読めないから着いて行っただけなのよ。(笑)自分がいる所よりも高い所があったら登ってみたくなるから行くだけ。
 自分が行ったのは、インドからインドヒマラヤを登ったの。最初に登ったのは、ガンジス川の源流の山なの。ガンゴトリっていう修行僧がいっぱいいる村があって、そこが最終の村なんですけど、そこから奥地に入って行くと聖なるガンガーの水が流れ落ちる山があって、それがガンゴトリ峰と呼ばれている山なんです。
 その次にムルキラに登って、そっちの方が有名ですよね。ムルキラは、ヒマラヤの要塞っていう意味なんです。難攻不落を誇っていた、とっても難しい山なんですけど、知らなかったの。(笑)全然知らないで着いて行った。だって海外に行けるだけで嬉しいじゃない。(笑)

___(笑)標高はどのくらいなんですか?

 6500mくらいですね。標高的には大したことないんですよ。7000mを超えない限りは、常時酸素ボンベを使うほどには酸素の量が減らないので。
 顔が、自分の感覚で言うと、2倍に膨れ上がった状態になるの。後は、酸素が圧倒的に少なくなって、だいたい4500mくらいで平地の1/2くらい、7000m超えると1/3になるの。だから、幻覚を見るなんて当たり前ですよ。思考能力は全部奪われるから、国内のトレーニングで自分の細胞の中に全ての動きを徹底して叩き込む。無意識で出来るように。車の運転って無意識でやるでしょ? 一緒です。
 後は「登りたい」という意志ですよね。それと、目的は登って下りてくるということだから、常に引き返す勇気が必要。「ここまで来た。あと50mで頂上だ」という時に、「いや、ここまでにして食糧だけ山に残して一旦下りて、休養をとってから行こう」って。チャンスがが今なのか今じゃないのか、常に選択していかなくちゃいけない。何故ならば、酸素の薄い所に居たらどんどん思考能力がなくなって生命の危険度が上がって行くので、長く留まれない。
 50mがあと一日かかると思ったら引き返す勇気が必要なんですけど、引き返さなかったことがあるんですよ。ムルキラの時でした。隊長が「行こうよ」って、引き返さなかったの。そこで自分は立ち止まって、上に進まなかったんですけど、そしたら、40mあるロープがシューって伸びて行くんですよ。もう、墜ちたのが分かるんですよ。こっちには岩が落ちてこなかったので、反対側に墜ちたんです。宙吊りになったんです。岩の角でロープが切れたら命が終いですから、ゆっくりブレーキをかけながら止まった。これは救出に行くしかない。反応があるかどうかホイッスルを吹いてみたり、手だてを講じてみたんですけど、ロープは伸びもしなければ弛みもしない。いつまでもいたって全員が死んでしまうから、もう行くしかない。で、自分が行って、気絶しているのを引っ張りあげた。

___生きてらしたんですね。

 生きてました。両足骨折で、宙ぶらりんになってました。登っていた5mくらいの岩が、それごと外れて。
 テクニックがすごくあった人なんだけど、判断が鈍ってたんだと思いますよ。あそこでは行く必要がなかった。でも、はやる気持ちは抑えられなかったんだなぁ、って。しかも、どんな山か本人は選んで行っているからね。こっちは知らないから。(笑)

いろんな体験してもらいたいねぇ。チャンス与えたいよねぇ。
まだ始まったばかりですから。


___そういう体験は、どんな風に反映しているんですか?

 分かりやすいのは、まだ発売していませんが、この魚の形の洗濯板です。俺、魚好きだから何でもお魚の形してると嬉しいの。

___それで魚型の洗濯板を作ったんですか(笑)

 そうそう。でもね、これ子育ての道具なんです。

___子育て?

 うん、俺にとってはね。これをお風呂場に置いてもらって、親子で遊んでもらいたいの。洗濯板として遊ぶんじゃなくて、浮かべたりして。
 そうして遊んだうえで、一緒に入ってるお父さんやお母さんが靴下やパンツを子どもの前で洗えば「何やってるの?」って。子どもは真似したがりだから「じゃボクもやる」って。そうしてその時に初めて靴下とかの形を覚えて行く。
 まぁ、好奇心だねぇ。知らないことを知るって面白いじゃん。「昔はこれを全部手でやっていた」って話になれば洗濯機の有難味も分かるかもしれないし、手でやればキレイになるって分かれば考えるようになる。だって、炊飯器がなかったら米が炊けないと思ってる子、多いんだからね。鍋が無くたって、竹があれば竹に入れて火に炙って炊けば香りが良くて、また面白いし。
 いろんな体験してもらいたいねぇ。チャンス与えたいよねぇ。

___そうしたことは、新しいことではないですよね。20世紀では忘れられていただけで。

 20世紀で忘れられ、21世紀ではもっと希薄になってしまった。

___どんどん希薄になって行ってしまうんでしょうか?

 いやいや。まだ始まったばかりですから。
 そういうところからじゃないと、発想は生まれて来ないよ。

自分が創造できないものは、残した方が良いに決まってる。
だから、生きた痕跡を残さず死にたいよね。


 一つ、みんなに提案があって。
 お腹の中に命を授かった瞬間から、父ちゃんは「お前の為に頑張れるから、それだけで良い」、母ちゃんも「お前がいてくれるから私は頑張れるのよ」って。その言葉だけをずっと繰り返してれば、それだけで良い。生まれてからも。
 子どもは、成長するにしたがって「自分はなんでここに生まれて来たのか?」「なんでこの家だったのか?」「なんでこの国だったのか?」って考える必要は何にもないのよ。自分はこの男とこの女に必要とされたからここに存在する。もうそれだけ。存在理由は。
 「何になればいいだろう?」「何をすれば良いだろう?」なんて関係ない。とにかく「お前がいるから俺は生きてるんだよ」って親が子に言う。そういう風に育てて行けば、そのうち戦争も国境も飢えも無い世の中を作れるんじゃないかって俺は思う。
 こんなシンプルなことで世の中を変えられる。そう思わない?(笑)

___親でないと分からない気持ちかも知れませんね。

 そうかもね。3代くらいかけようよ。参加者募集中。(笑)
 自分がそっちの方へ向いてるから、大人相手は鬱陶しいよね。何が「地球に優しい」だの「環境に良い」だとか、本当に考えてもない癖に。

___たしかに「エコ」ということがブランドのようになってしまっていますね。そのレッテルを貼ると売れてしまう。

 また、「エコ」と言わなければ反社会的というような風潮まで出来上がりつつある。ウチの会社も「エコ」の範疇に入れられるのが、俺は嫌で仕様がないんだけどね。

___そうなんですか?

 だって、当たり前のことをやってるだけだもの。自分が滅んでも、自分が目にした自然とか空気感とか残ってて欲しいじゃん。自分が創造できないものは、残した方が良いに決まってる。
 だから、生きた痕跡を残さず死にたいよね。(笑)それが俺にとって美学とか美意識ということになってるね。

___痕跡を残さない、ということは「美しい」と?

 美しいってことでしょ。
 
___私自身も今の時点で辿り着いた結論は、「美しさ」とはスタイルではなくてシステムだと思っています。つまり、私たちはそもそも「美しさ」の内側にいるんじゃないのか、って。

 何を持って「美しい」という言葉を使い始めたのか。それは何か理由があるはずなんです。
 生命が誕生して、光を感じることが出来るようになって、夜と昼が分かるようになって、それからだんだん目で見えるようになって訳。で、生命は初めて「見た」時のものを記憶してる訳。それを「美しい」ということの基準に置いているのよ。鳥とかって、生まれた時にオッパイをくれた人のことをお母さんと思うじゃない。それと同じで、自分たちにとって母だったものは全て「美しい」の対象になって行くんだよね。
 だから、過去の状況の内側でしか、自分たちはない。それを超えることはないのよ。

___なるほど。だから私たちは「宇宙」や「自然」に何かを感じるのですね。

 そうそうそう。でなきゃ、それを「美しい」とは言わないと思う。
 違う星の人が、地球を美しいって言うか分かんないじゃん。

___「科学の探究」というのは、まさに「美の追求」ということなんですね。

 完璧にそうよ。そこに成り立っている法則っていうのは、足すこともなく引くこともない「まさにこれである」というものしか存在しない。だから、数学や物理学というものは、もうこの上もない「美」ですよ。もの凄い美しい!
 だから、ものづくりするのは「美の追求」になっている。洗剤だって、普通の会社だったら、お皿に付いた汚れや襟に付いた汚れを「落としなさい」と言われて研究する。汚れを落としてあげれば売れるんだから、って。所詮その程度。その先は考えられていない。自分にとっては、そのお皿や襟をキレイにした後の水と“汚れチャン”、俺にとっては“汚れ”なんて呼び捨てに出来るものじゃないのよ(笑)、これを幸せにしないといけない。
 だって、さっきまで「美味い」と言って食べていて、残った“焼き肉のたれチャン”が、食べ終わったら“汚れ”って言われる訳。手をかけて作ったものだよ。調合するっていうことも大変だし、その前の、素材を育てたのも人間です。で、食べ物を本当に育ててくれたのは「土」ですよ。
 俺たちは地球の生命体だから、地球を食べなきゃ生きて行けない。でも、土はそのままじゃ食べられない。それで、植物という体を借りて、食べやすい形で「土」を食べている。で、自分が戻れば良い訳です。それで痕跡が消える。繋がって行くでしょ?

___そうか! 凄い繋がりですね。

 肉を食べるのも、植物を食べて育ったものを頂くことによって、植物からは摂り難いものを“お肉さん”から頂く。そういう連鎖だから。

___そう考えると、私たちの生活はいろいろなことをブツ切りにしちゃっていますね。

 相当してるね。
 切るのは美容室で髪の毛くらいにしておかないとさぁ。(笑)


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