17 August
「ケ」のジュエリー
___『アクセサリー・スクール』を始めてからどのくらいになるのですか?
今年で10年になります。
___ 当初から大盛況だったそうですが、延べにすると何人くらいの生徒さんがいらっしゃったのでしょう?
月30〜40人ですから、年400人、10年で4000人ですね。本当にありがたいことです。
皆さんとても良い方ばかりで、どこかで繋がりを持ちたいと思いながらもその教室の時間で別れてしまうんですが、教室展やパーティをやることで個人的な繋がりも出来てきて、とても楽しいみたいですね。
その間ずっと通って下さっている方もいらっしゃいますが、ウチは入会金もなく、コンスタントに通わなくても良いシステムになっていて、どんなに長い方でも一回一回申し込んでいただく形なんです。
それは私にとっては厳しいことで、作品がつまらないものだったら人が少なくなるだろうし。だけどそれを縛らないで、やりたい時に自由に、という考えです。
その人の人生において、いろいろ波があると思うんです。すごくアクセサリーを作りたい時もあるし、他のことに興味がある時もあると思うので、長い目で見ておつき合いして頂きたいと思ってこういうシステムをとっています。
毎月申し込んでいただく方は本当にありがたいと思いますし、子育てで2〜3年休んで復帰される方もいて、それは自由で本当の形かなと思っているんです。それが長く続いた秘訣かな。
縛らない。自由。(笑)
___生徒さんも、いろいろな体験をなさっているのでは?
そうだと思います。
あまりつぶさには聞かないのですが、表情で分かりますよね。自分の力ではどうにもならない、天然の石の難しさに皆さん辟易としていることがあるんですよ。(笑)
だけど、2時間3時間やっていると、なんとか形になっていく。そうすると、やっぱり、お顔が輝きますよね。
「本当に来て良かった」「本当に楽しかった」って言ってくださって、その顔を見せていただくと本当に私も嬉しいです。
石の色を見たり、触ることでその温度の冷たさを感じたり、それがすごくヒーリングになるとおっしゃってくれます。「何を作る」とか「そのアクセサリーが自分に必要か」ではなくて、ただ「石を触りたい」ということで来られる方もいらっしゃいます。
___「作る」という行為の過程では、いろいろな「気づき」があったりしますよね。
私自身、あんまり考えずに作る時と、デザインを絵に描く時と、いろいろなやり方で作りますが、天然石というのは人間が作ったものではないので、予想外のことがあります。それによって引っ張られて行くようで、スランプがないです。
もし同じ材料を使って新しいものを生み出そうとしたら、きっとどこかでつまずくんでしょうが、新しい形のものを発見したり、自然から出た色に感動したり、思っていたものと全然違ったり、それが楽しいところですね。
___教室では、自由にやらせることとキチンと伝えることとのバランスがお上手だと感じました。
聞いていただいたら教える、という感じなんです。
他所の教室だったら、「先生」と呼ばれて、テキストがキチンとあって、段階を踏んで、というふうにしますけど、できるだけ私は「先生」と呼ばれたくなくて(笑)
必要なテクニックを必要な時に体得していただくような形が「大人の習い事」なのかな、と思っているんです。
___天然石はブームですが、石選びの相談は受けますか?
私は、その人がピンと来たものを買っていただくのが良いと思っています。自分が今欲している石を選んでいただく、そういう強さが皆さんにあって欲しい、といつも思うんです。
ですから、石の効能とか、そういう話はあまりせずに、インスピレーションで選んでいただきたいと思っています。
___教室を始めた10年前というと、ビーズや天然石のブームより早かったのでは?
ビーズブームが始まった頃でした。私は宝石を扱っていたので、天然石だけを使ったアクセサリーを作る講習会をやってみたらどうか、ということから始まったんです。
ビーズブームの中で私に期待していたことは、ビーズで編むストラップやネックレスを、素材の良い天然石に置き換えて作る、というニーズだったんですね。だから初めは、天然石なんだけどカットの揃ったものを使って、ビーズで作るのと似たような技法で教えなきゃいけなかったんです。
でも、私のやりたいのはそれとは違った。
___と、おっしゃいますと?
天然石である以上、本来その石にあったカットにするべきなんです。例えば、トルコ石だったら、4ミリにカットしたりする必要はなくて、ただゴロゴロとした石をそのまま活かしたい。
でも流行っていたのは3ミリや4ミリの細かい雰囲気のものだったので、ちょっとバランスをとるのは難しかったです。
___そういう意味では、時代が流れてきましたね。
そうですね。皆さん、一通りやったと思います。(笑)
それで今、興味があって残っている方は、もっと上のものを目指してる。そうなると、ちょうどウチみたいに天然石を活かすアクセサリー作りをしてる所へ来るとビックリして、「あ、私のやりたいのはこれだった!」って言ってくださいます。
___これからの展開については、どんなお考えですか?
ジュエリーが今まで持っていたイメージをどこかで破壊したいような気がいつもあるんです。ジュエリーを買いにいらっしゃるお客さまは、女性だったら働いていてお金を自由に使える方だったり、男性だったら年に一回クリスマスやお誕生日に買いに来るとか、そういうイメージが普通のジュエリーショップだと思うんですけど、全く逆にしたかったんです(笑)。
そこに情報が集まっていて、毎日寄っちゃうようなお店。
___とすると、どんな方にどんな形で広めていこうと考えてらしたんですか?
大胆なんですけど、本当に老若男女なんです(笑)。
カフェがあることで、3歳のお子さんにお気に入りのメニューがあったり、80歳の方も入ってこられるし、お教室もこの空間でやっています。私の思惑通り(笑)。
これは既存のジュエリーショップには絶対ないことだと思うんです。
___ワクワクしますね!
常識的には有り得ない、と言う方もいらっしゃいます。でも、そのくらいのインパクトが小田原には必要だと思うんです。
「ハレ」と「ケ」ということで言えば、ジュエリーは「ハレ」だという感覚があると思うんですが、対極の「ケ」をやってしまおうという感じなんです。だから、普段は買い物をしなくていいと私は思っていて、一週間に何度でもただ顔を出す、という不思議なジュエリーショップ。
ジュエリーと言っても、3000円のモノから100万円のモノまであって、「あなたに必要なのはダイヤモンドかも知れないけれど、同時に水晶の石ころかも知れない」ということを提案したいんです。それは、日々、毎日のように顔を合わせてお話をしていくことで分かることだろうと思うんです。
___「ケ」のジュエリーというと、どのようなイメージでしょう?
宝飾品というと、ダイヤだとかルビーだとかサファイヤだとか、とても高い物ですから、一度買ったらずっと身に着ける。そういうメモリアルなジュエリーというのは、凄く大切で、代々伝えていくような「ハレ」の部分だと思っているんです。
それに対して、季節季節にジュエリーがあったら楽しいと思ったのが、天然石ビーズを扱っている部分なんです。お洋服より安いかも知れない。それで、時代の気分をいつも纏える。今必要なものを、すぐに、誰でも買える。
そのビンに入っている石は、宝石と同じものなんだけど、ちょっと濁っているというだけで10円だったりする。それは3歳の子でも買える。
それが「ケ」だと思っていて、その部分も扱っていきたい。
今までのジュエリーショップでは分断してしまっていて、その部分はパワーストーン屋さんだったりビーズアクセサリー屋さんだったり、宝石屋さんは別だった。私はその中間に立っていて、どちらも扱って、どちらも同等に素晴らしくて価値のある物だと思って、それが、誰でも来られるということに繋がっています。
___伝統的な宝石というと、権威的な価値観があります。
今の時代は一つの価値観では計れなくて、個人個人価値観があるし、個人の中にもいろいろな部分があります。
一人の人の中に、「最高のダイヤモンドを手に入れたい」という気持ちと「この石ころも素敵」という部分があって、キレイなものが好きということでは全然変わりがないと思うんです。
自分もそうですが、ダイヤモンドを扱っていると「4C(カット・カラット・クラリティ・カラー)」を説明したりするのですが、人間はこれほど素晴らしいカットが出来るということにリスペクトがあって、それに挑戦していく力についても凄く惹かれるんです。それと同時に、何もカットされずに転がっている石の中に「キレイ」を見出すということも自分の中にあって、不思議だなと思います。
素直になりたいですね。
高額な宝石を売る為に、権威的な部分に自分がいなければと思って石ころには関わらないというのが、今までの宝石屋さんの考え方だったと思うんです。
___皆さんの反応はいかがですか?
業界の方は驚いて、「何がやりたいの?」とか(笑)。でも、一般の方は「楽しい」。
複合ショップをオープンする前、3年間、路面店を休んでビルの3階で事務所だけにしていた時期があるんです。必要最低限の仕事だけをして。
それが良かったと思うのは、冷静に業界を見ていたんじゃないかな。何か嫌だと思っていた部分がハッキリした。不自然なことをしていた気がするんです。
その時に、今度やる店は普通の宝石屋さんじゃないだろうな、という気がしていました(笑)。
___ジュエリーショップというと「街」と切り離せない。「街」の中での存在。かたや「スローライフ」など、「街」から離れることへの価値観がある。その辺は、どうお考えですか?
出来れば「街」から離れたいかも知れない。
高価なダイヤモンドを見る時も、もっと空気のキレイな所で見た方が良いと思うんです。 アクセサリー・スクールも、すごく風の入る所で出来たら気持ち良いと思う。光とか。空気感。
ジュエリーショップというと、黒が基調でピンスポットが当たったいるような暗いお店がいっぱいありますが、私は違うと思うんです。もっとナチュラルな場所で見た方が、本当の色も分かるし、嘘がない。そういう所で見た方が良いし、選んで欲しいと思う。
___貴金属についても、「街」を離れて商売が成り立つと思いますか?
やってみないと分かりませんが、ナチュラルなストーンの場合は、かえってその方が良いと思います。
都会的なもの、都会にいる人が選ぶジュエリーは、少し難しいかも知れないですが、逆にそれを価値を思って買いに来てくれる人はいると思うので、やってみればまぁまぁ成功の方じゃないかと思います。
___私も美容師として「街」との繋がりはテーマなんです。流行と切り離してのファッションは有り得ないので。
でも、「美」という精神性が経済システムに取り込まれていることに、違和感を感じています。
私もそういう仕事に関わっていて、いつも居心地が悪いことは悪いですね。
___藤沢さんの場合は、「天然石」というのが一つの突破口なのでしょうか?
「自分が息が出来る」というか「自然」になれるところのような気がします。高価な貴金属だけでは息が詰まるところがあって。
でもかたや「流行」は面白いですよね。都会から切り離された所に移って行ったら、それが新たな悩みになるかも知れないですね。 流行のものを置いてもあまり意味がなくなる。
___ 最先端のものと、地に根を張るもの。 私たちが両方見れるアンテナを持って「媒介」になれば良いのかな?
そうですね。
あとは、「街」そのものについても考えた方が良いかも知れないですね。ココにいながら、この街がもっと自然に近づくようなことを考える。
街の良さは、人がたくさんいて、人が簡単に出逢えたり、情報を直ぐに分かち合えたりすることだろうと思います。街角に店をつくることは、出来るだけ長い時間店を開けて、たくさんの人が入り込めるような場所をつくる義務があるような気がするんです。
私がココにお店を出して人と人が繋がっていく場所をつくることによって、どういうカタチか分からないけども、自然にみんながこの街を居心地の良い空間にしていくような努力を協力してできるような、そういう流れがつくれたらいいと思っています。
___人が集まる場所を提供するということは、すごく大きな意義がありますね。
それは商売をやっていく人だったら義務みたいなものだと思っているんです。
それで私たちも生活させていただいているのですから、いろいろな人と逢う機会があって、より良い何かを生み出す力が生まれるような場所を、いつもここに作っておくということがとても必要ですよね。
29 July
街角の店
叩き上げ
___貴金属の世界でも、カリスマ的なデザイナーとかいらっしゃるんですか?
例えば、スペインのホアキン・ベラオさんや、ティファニーにいらっしゃるピカソの娘さん(パロマ・ピカソ)とか。
日本にもいっぱいいらっしゃいます。
ほとんどの方が、専門の学校に行って彫金や石の勉強をしてる方が多いと思うのですが、私は家業だったので、叩き上げのような感じで(笑)。
普通の大学で心理学をやって、卒業したらすぐにこの仕事をやらなくてはいけない状況で、専門の学校に行ったことはないんです。必要な時に必要な部分だけを習いに行くような感じでした。
___教室での教え方にも、それが反映しているように思います。自由にやらせる部分と、ガイドラインをきちんと示す部分と、そのバランスを心得てらっしゃるように見えます。
せっかくいらしていただいているので、一つは技術が上がっていただきたいという思いがあるんです。だけど、楽しいことが一番。楽しく、キレイに、自分が良いと思ったものを作っていく。
なるべく自由に、思ったようにやってもらって、ポイントだけ「工具の使い方はこう!」みたいな時に言わせていただく。
全員に同じことを言っても仕方がないですよね。その人に必要のないことだと覚えられないし。
___教える場面でも個別対応。
個別ですね。私の場合、クラスは8人くらいまでです。
人の始まり
___心理学を専攻されていたということは、先生をめざしていた?
小学校の先生になりたかったんです。
「教育」というか、人の始まりの根底のようなところを一緒に勉強できたらおもしろいだろうと思っていたんです。
___話が大きくなりますが、今の「教育」についてお感じになることなどありますか?
話大きいですね(笑)
「ゆとりの教育」とか言いますが、何か違う気がします。もっと根源的な「自然」の所に連れ出すような時間があった方が良いですよね。
「街」の価値
___ジュエリーショップというと「街」と切り離せない。「街」の中での存在。かたや「スローライフ」など、「街」から離れることへの価値観がある。その辺は、どうお考えですか?
出来れば「街」から離れたいかも知れない。
高価なダイヤモンドを見る時も、もっと空気のキレイな所で見た方が良いと思うんです。 アクセサリー・スクールも、すごく風の入る所で出来たら気持ち良いと思う。光とか。空気感。
ジュエリーショップというと、黒が基調でピンスポットが当たったいるような暗いお店がいっぱいありますが、私は違うと思うんです。もっとナチュラルな場所で見た方が、本当の色も分かるし、嘘がない。そういう所で見た方が良いし、選んで欲しいと思う。
___貴金属についても、「街」を離れて商売が成り立つと思いますか?
やってみないと分かりませんが、ナチュラルなストーンの場合は、かえってその方が良いと思います。
都会的なもの、都会にいる人が選ぶジュエリーは、少し難しいかも知れないですが、逆にそれを価値を思って買いに来てくれる人はいると思うので、やってみればまぁまぁ成功の方じゃないかと思います。
___私も美容師として「街」との繋がりはテーマなんです。流行と切り離してのファッションは有り得ないので。
でも、「美」という精神性が経済システムに取り込まれていることに、違和感を感じています。
私もそういう仕事に関わっていて、いつも居心地が悪いことは悪いですね。
___藤沢さんの場合は、「天然石」というのが一つの突破口なのでしょうか?
「自分が息が出来る」というか「自然」になれるところのような気がします。高価な貴金属だけでは息が詰まるところがあって。
でもかたや「流行」は面白いですよね。都会から切り離された所に移って行ったら、それが新たな悩みになるかも知れないですね。 流行のものを置いてもあまり意味がなくなる。
___ 最先端のものと、地に根を張るもの。 私たちが両方見れるアンテナを持って「媒介」になれば良いのかな?
そうですね。
あとは、「街」そのものについても考えた方が良いかも知れないですね。ココにいながら、この街がもっと自然に近づくようなことを考える。
街の良さは、人がたくさんいて、人が簡単に出逢えたり、情報を直ぐに分かち合えたりすることだろうと思います。街角に店をつくることは、出来るだけ長い時間店を開けて、たくさんの人が入り込めるような場所をつくる義務があるような気がするんです。
私がココにお店を出して人と人が繋がっていく場所をつくることによって、どういうカタチか分からないけども、自然にみんながこの街を居心地の良い空間にしていくような努力を協力してできるような、そういう流れがつくれたらいいと思っています。
___人が集まる場所を提供するということは、すごく大きな意義がありますね。
それは商売をやっていく人だったら義務みたいなものだと思っているんです。
それで私たちも生活させていただいているのですから、いろいろな人と逢う機会があって、より良い何かを生み出す力が生まれるような場所を、いつもここに作っておくということがとても必要ですよね。
22 July
憧れと模索
自分で気に入った作品ほどサッと売れて行ってしまうんです。
___藤沢さんのブログは「てしごとDiary」というタイトルですが、ご自身の中で「作家」としての比重は大きいのでしょうか?
「作家」について、いちばん憧れがあるかも知れないです。(笑)
いつも、ちょっとした時間で作ることで「てしごと」を終わらせているのですが、本当はそこに没頭してそれだけで生きて行けたらカッコいいなぁと思う。
カタチとして工房をつくることは簡単なんですが、飽きっぽくてじっと座ってられないんです。(笑)静かに座って思索している人には憧れます。
___驚いたことに、今まで個展をなさったことないんですね。
そうなんです。「何処何処でどんな作品展をやった」というのが作家にとっての経歴なんだ、ということに最近気づきました。私にはそれがなくって。(笑)
___作品展で作品が売れる、ということを考えれば、日々作品展なのでは?
そうなのかも知れないですね。
ありがたいことに、作って出したらすぐに売れて行く。留まっていることがあまりないんです。もう少し作品をためたい気持ちもあるのですが、自分で気に入った作品ほどサッと売れて行ってしまうんです。(笑)
なかなか動きが落ち着かないのですが、それは恵まれたことだと思います。
作品づくりは、石に助けられることが多いです。
___その辺り、デザイナーと作家とでは一線がありますね。
そうなんですね。
私には、すぐに作って出さないと間に合わないお客さまが先にいらしたので、その方に合わせて作っているうちに、時々「作家」と呼ばれるようになっていったんです。
___作品づくりのアイデアは、いつもどんな感じで訪れるんですか?
う〜ん、降ってくる時もあるし、苦しんで苦しんで、以前のものの繋ぎ合わせになっている時もありますが、たいていは石に助けられることが多いです。「この石をどうやったら一番たのしく見せられるか?」とか、実際にお客さまがいらっしゃるので「その方をキレイに見せるにはどうしたら良いか?」というように考えると、それほど苦しいことではないです。
ただ、毎月の教室のテーマ作品については、ちょっと大変な時もあります。トレンドを取り入れたい気持ちもありますし、天然石ですから素材を活かしたいし、せっかく習いにいらして下さるので少々難しいテクニックも盛り込みたい。そういうことを考えると、普通にお売りするものと教室でやっているものは少しスタンスが違いますね。
___これからの展開については、どんなお考えですか?
今年はアクセサリー・スクールが10周年を迎えることが出来たので、何かまとまった形で皆で発表するものや、一人で展示するものや、出版物にまとめたりもしたいと思っています。作品集であると同時に、作り方が載っているようなものを考えています。
仕事を最小限にしたら、人との繋がりが最大になった。
15年間小さなお店をやっていて、3年前に主人が大阪に転勤をするというので、一度お店をたたんで、最小限のことだけを小田原で仕事をしようと思ったんですね。20日間は大阪、10日間は小田原。その中で出来るのは、自分の売ったものに対してのメンテナンスと、教室のこと。その2つのことだけをやるためのすごく小さな事務所をつくったんです。
人から見ると、ボロボロのビルの3階に行って「泉さん何してるんだろう?!」っていう人もいたハズなんだけど、結果的には、そこで出来た友達が今をつくっている。
ビルの入居者同士みんな仲が良くて、「長屋」と呼んでいました。朝行けば他の会社の人でも「おはようございます!」から始まって、お菓子をいただけば隣の会社にお裾分けしたり、兄弟のように仲良くなりました。
そこから展開して、いろいろなコラボレーションをしたり、誰かのお手伝いに行ってそこでまた人と出逢ったり。
そんな流れで、今回のお店は出来てしまった感じです。
___今でもその繋がりは活かされている?
そうですね。まだそのビルの中に小さい部屋を残してあります。
今考えるとすごく不思議な3年間でした。自分では仕事を最小限にしたつもりなんだけど、人との繋がりが最大になった。
そこで私が楽しそうにしているから、お客さまもやって来る。 みんなウチの部屋で溜まってました。(笑)
一日中お茶を出さなきゃいけなくて、ずっとおしゃべりして、自分の仕事は夜9時から。9時から12時まで一生懸命作って、昼間は人とおしゃべりをして。そういう感じでした。
___人の繋がりって、財産ですよね。
財産ですね。本当にそう思います。
進化の途中なので、何かメッセージを伝えようというのは、今は無いです。
___今こうして出店なさって、新たなネットワークづくりはいかがですか?
今回の特徴は、パートナーのackeyと年齢が10歳くらい違うことですね。お客さまの年齢層が違うので、それぞれが交流していくことが新しいと思います。年齢も生活スタイルも違う、そういう交流が出来つつあることが、すごく面白い。
___世代を超えて広がって行くことはワクワクしますね。
そうですね。私も若返るというか。(笑)
___世代間で伝えて行きたいことはありますか?
これを伝えて行きたいというのは、もともと無いんです。
黙って見せて、どんな反応をするのか、それを今は観察しているようなところがあって、自分がこれで良いのかも、今は分からないです。私は、ずっと分からないのかも知れないです(笑)。
ついつい難しい方へ択んで行ってしまうところがあって、みんなが「そうだ」と言うと「いや違うかも知れない」と言って、自分一人でまた違う方向へ行きそうな気がします。
進化の途中なので、何かメッセージを伝えようというのは、今は無いです。
___じゃぁこれからが楽しみですネ。
それを楽しんでくれる人が来てくれて、一緒に考えるような所が良いんじゃないかと思っています。
先日も、あるおじいさんが店にいらして、このお店がすごく気になるみたいなんです。3回ほどいらしたんですけど、「今の世の中、みんな迷ってるんだよ!」って言うんです。「迷ってるんだから、決めてやらなきゃいけないんだ!」って。
私が「違うんです!迷ってて良いんです!私は自由だと思うんです!」と言うと、それが楽しいらしくて、「君は面白いねぇ!」って。
哲学みたいでしょ。(笑)
何でそんなことをおっしゃるのか、私もそんなにムキになるのか、でもこのお店についてすごく興味があるそうなんです。
___これからも模索し続ける。
はい!
模索したいですね。好きですね、模索が。(笑)
15 July
「ケ」のジュエリー
アクセサリー・スクール
___ 『アクセサリー・スクール』は当初から大盛況だったそうですが、延べにすると何人くらいの生徒さんがいらっしゃったのでしょう?
月30〜40人ですから、年400人、10年で4000人ですね。本当にありがたいことです。
皆さんとても良い方ばかりで、どこかで繋がりを持ちたいと思いながらもその教室の時間で別れてしまうんですが、教室展やパーティをやることで個人的な繋がりも出来てきて、とても楽しいみたいですね。
___東京や横浜からも生徒さんがいらっしゃるそうですね。
ホームページを見ていらっしゃるのですが、検索すること自体、私は凄いことだと思うんです。たくさんの中から私を選んでくださるということにも驚きます。
てしごとDiary
___オンラインの展開は、かなり早い時期からなさっていましたね。
その事については興味があって、【jewelry.co.jp】と【jewelry.jp】のドメインを取ったのは10年くらい前でした。
主人が詳しくて、これからはそういう時代が来るからとアドバイスをされたので、そのドメインを取ってみました。
___オンライン展開の一方で、実店舗として人が集まる仕組みを作ってきたということでしょうか?
実店舗も魅力的なのですが、自分の思っていることをもっと遠くへ飛ばしたい、遠くの人とも通じ合いたい、という気持ちがいつもあるんです。
___ ブログ「てしごとDiary」も頻繁に更新されていますね。
皆さんよくご覧になっていただいているようで、2〜3日ボーッとして書かないでいるとすごく心配して直接メールをくださったりするので、なるべく書いて、元気だって知らせなきゃ、って(笑)。
___私は泉さんの美術館情報を頼りにしているんです(笑)。最近行かれた美術館巡りで、印象に残っているのは何ですか?
お台場でやっていたグレゴリー・コルベール『ashes and snow』です。
コンテナを積み上げて作った仮設の移動美術館なんです。私が行ったのは3月で、外の空気よりも中の方が寒いくらいに外気と一体化していたんです。写真はすべて和紙に焼き付けてあって、その色や暗さ、温度、音楽、全てがモノを表現する為に、ここまで突き詰める方がいらっしゃるということに感動しました。
___場所自体がひとつの作品だったということでしょうか?
そうですね。その中で動物と人間の関わりや自然を描くという、私には表現ができないですね。衝撃的でした。
複合ショップ
___場所をつくることは重要なことですね。泉さんも、ジュエリーとカフェの複合ショップをなさっています。
最初は個々に出店しようとしていたのですが、一つの大きい空間を皆でシェアして何かを作り出すということで、意見が一致したんです。
ジュエリーが今まで持っていたイメージをどこかで破壊したいような気がいつもあるんです。ジュエリーを買いにいらっしゃるお客さまは、女性だったら働いていてお金を自由に使える方だったり、男性だったら年に一回クリスマスやお誕生日に買いに来るとか、そういうイメージが普通のジュエリーショップだと思うんですけど、全く逆にしたかったんです(笑)。
そこに情報が集まっていて、毎日寄っちゃうようなお店。
___とすると、どんな方にどんな形で広めていこうと考えてらしたんですか?
大胆なんですけど、本当に老若男女なんです(笑)。
カフェがあることで、3歳のお子さんにお気に入りのメニューがあったり、80歳の方も入ってこられるし、お教室もこの空間でやっています。私の思惑通り(笑)。
これは既存のジュエリーショップには絶対ないことだと思うんです。
「ケ」のジュエリー
___ワクワクしますね!
常識的には有り得ない、と言う方もいらっしゃいます。でも、そのくらいのインパクトが小田原には必要だと思うんです。
「ハレ」と「ケ」ということで言えば、ジュエリーは「ハレ」だという感覚があると思うんですが、対極の「ケ」をやってしまおうという感じなんです。だから、普段は買い物をしなくていいと私は思っていて、一週間に何度でもただ顔を出す、という不思議なジュエリーショップ。
ジュエリーと言っても、3000円のモノから100万円のモノまであって、「あなたに必要なのはダイヤモンドかも知れないけれど、同時に水晶の石ころかも知れない」ということを提案したいんです。それは、日々、毎日のように顔を合わせてお話をしていくことで分かることだろうと思うんです。
___「ケ」のジュエリーというと、どのようなイメージでしょう?
宝飾品というと、ダイヤだとかルビーだとかサファイヤだとか、とても高い物ですから、一度買ったらずっと身に着ける。そういうメモリアルなジュエリーというのは、凄く大切で、代々伝えていくような「ハレ」の部分だと思っているんです。
それに対して、季節季節にジュエリーがあったら楽しいと思ったのが、天然石ビーズを扱っている部分なんです。お洋服より安いかも知れない。それで、時代の気分をいつも纏える。今必要なものを、すぐに、誰でも買える。
そのビンに入っている石は、宝石と同じものなんだけど、ちょっと濁っているというだけで10円だったりする。それは3歳の子でも買える。
それが「ケ」だと思っていて、その部分も扱っていきたい。
今までのジュエリーショップでは分断してしまっていて、その部分はパワーストーン屋さんだったりビーズアクセサリー屋さんだったり、宝石屋さんは別だった。私はその中間に立っていて、どちらも扱って、どちらも同等に素晴らしくて価値のある物だと思って、それが、誰でも来られるということに繋がっています。
___伝統的な宝石というと、権威的な価値観があります。
今の時代は一つの価値観では計れなくて、個人個人価値観があるし、個人の中にもいろいろな部分があります。
一人の人の中に、「最高のダイヤモンドを手に入れたい」という気持ちと「この石ころも素敵」という部分があって、キレイなものが好きということでは全然変わりがないと思うんです。
自分もそうですが、ダイヤモンドを扱っていると「4C(カット・カラット・クラリティ・カラー)」を説明したりするのですが、人間はこれほど素晴らしいカットが出来るということにリスペクトがあって、それに挑戦していく力についても凄く惹かれるんです。それと同時に、何もカットされずに転がっている石の中に「キレイ」を見出すということも自分の中にあって、不思議だなと思います。
素直になりたいですね。
高額な宝石を売る為に、権威的な部分に自分がいなければと思って石ころには関わらないというのが、今までの宝石屋さんの考え方だったと思うんです。
___皆さんの反応はいかがですか?
業界の方は驚いて、「何がやりたいの?」とか(笑)。でも、一般の方は「楽しい」。
複合ショップをオープンする前、3年間、路面店を休んでビルの3階で事務所だけにしていた時期があるんです。必要最低限の仕事だけをして。
それが良かったと思うのは、冷静に業界を見ていたんじゃないかな。何か嫌だと思っていた部分がハッキリした。不自然なことをしていた気がするんです。
その時に、今度やる店は普通の宝石屋さんじゃないだろうな、という気がしていました(笑)。
08 July
「天然石」と「習い事」
家族や親戚にはモノを作る人が多いんです。
___お店のジュエリーのうち、手作りのものはどのくらいあるんですか?
ビーズアクセサリーは100%ウチで作っています。天然石に穴が開いたもので、ガラスやプラスチックのものとは全く違うものです。
貴金属のものは、私が注文して他所の工場で作っているものが多いですが、オーダーがあったものは作っています。
___では「作る」と言うより、「デザイン」とか「プロデュース」という感じなんでしょうか?
そうですね。集めてくる、とか。
「ここをウチのお客さまに向けてこうして下さい」ということを細かく注文したり、そういうことでは工夫をしています。
___オーダーの物は多いですか?
半分くらいでしょうか。
毎月新しい作品をつくっていくのですが、それを見て「私にはこれはちょっと重い」とか「ここは気に入っているけど、、」というようなことをお伺いしたら、それをその方に合うように工夫して変えています。
___作家としてこだわってらっしゃる事はありますか?
父は貴金属の彫金の職人で、京都の母方の家に修行に行っていたり、家族や親戚にはモノを作る人が多いんです。ですから、モノを作るということはとても自然なことで、意識をしてこだわっている事は全然無いんです。
頼まれたものを直ぐ形にしたいとか、その人に合うものを作ってあげたいとか、ただ自然の成り行きでそうなっているだけで、自分はこうしたいというのはあんまり無いです。
デザインで感動して欲しい
___天然石はブームですが、石選びの相談は受けますか?
私は、その人がピンと来たものを買っていただくのが良いと思っています。自分が今欲している石を選んでいただく、そういう強さが皆さんにあって欲しい、といつも思うんです。
ですから、石の効能とか、そういう話はあまりせずに、インスピレーションで選んでいただきたいと思っています。
___石とデザインと、どちらが先に決まるんですか?
私の所ではデザインでしょうか。
天然石を扱う人からは、石の効能というようなことをもっと打ち出した方が良いという意見をいただくのですが、デザイン性ということでもっと感動して欲しいと思っています。
縛らない。自由。
___作品をつくる教室もなさっていますが、どんなアプローチをされているのですか?
できるだけ自由にしていただきたいのが本心です。
自分に合う色や、自分の好きな石を自分でお選びになるのが一番だと思っています。けれど、そう言うとなかなか選べないので、初めは提案をして、キットを用意して、すぐに始められるようにしています。
テクニックが身に付いてくれば余裕も出てくるので、石選びも「こうしたい」というのが同時に出て来て、私から見ても楽しく素敵なものを皆さん作ってくれています。押しつけではない自発的なものを皆さんに作って欲しいと思って、この活動を続けています。
___教室では、自由にやらせることとキチンと伝えることとのバランスがお上手だと感じました。
聞いていただいたら教える、という感じなんです。
他所の教室だったら、「先生」と呼ばれて、テキストがキチンとあって、段階を踏んで、というふうにしますけど、できるだけ私は「先生」と呼ばれたくなくて(笑)
必要なテクニックを必要な時に体得していただくような形が「大人の習い事」なのかな、と思っているんです。
___教室を始めてからどのくらいになるのですか?
今年で10年になります。
その間ずっと通って下さっている方もいらっしゃいますが、ウチは入会金もなく、コンスタントに通わなくても良いシステムになっていて、どんなに長い方でも一回一回申し込んでいただく形なんです。
それは私にとっては厳しいことで、作品がつまらないものだったら人が少なくなるだろうし。だけどそれを縛らないで、やりたい時に自由に、という考えです。
その人の人生において、いろいろ波があると思うんです。すごくアクセサリーを作りたい時もあるし、他のことに興味がある時もあると思うので、長い目で見ておつき合いして頂きたいと思ってこういうシステムをとっています。
毎月申し込んでいただく方は本当にありがたいと思いますし、子育てで2〜3年休んで復帰される方もいて、それは自由で本当の形かなと思っているんです。それが長く続いた秘訣かな。
縛らない。自由。(笑)
お顔が輝くと、本当に嬉しいです。
___生徒さんも、いろいろな体験をなさっているのでは?
そうだと思います。
あまりつぶさには聞かないのですが、表情で分かりますよね。自分の力ではどうにもならない、天然の石の難しさに皆さん辟易としていることがあるんですよ。(笑)
だけど、2時間3時間やっていると、なんとか形になっていく。そうすると、やっぱり、お顔が輝きますよね。
「本当に来て良かった」「本当に楽しかった」って言ってくださって、その顔を見せていただくと本当に私も嬉しいです。
石の色を見たり、触ることでその温度の冷たさを感じたり、それがすごくヒーリングになるとおっしゃってくれます。「何を作る」とか「そのアクセサリーが自分に必要か」ではなくて、ただ「石を触りたい」ということで来られる方もいらっしゃいます。
___「作る」という行為の過程では、いろいろな「気づき」があったりしますよね。
私自身、あんまり考えずに作る時と、デザインを絵に描く時と、いろいろなやり方で作りますが、天然石というのは人間が作ったものではないので、予想外のことがあります。それによって引っ張られて行くようで、スランプがないです。
もし同じ材料を使って新しいものを生み出そうとしたら、きっとどこかでつまずくんでしょうが、新しい形のものを発見したり、自然から出た色に感動したり、思っていたものと全然違ったり、それが楽しいところですね。
私のやりたいのはこれだった!
___教室を始めた10年前というと、天然石のブームより早かったのでは?
ビーズブームが始まった頃でした。私は宝石を扱っていたので、天然石だけを使ったアクセサリーを作る講習会をやってみたらどうか、ということから始まったんです。
ビーズブームの中で私に期待していたことは、ビーズで編むストラップやネックレスを、素材の良い天然石に置き換えて作る、というニーズだったんですね。だから初めは、天然石なんだけどカットの揃ったものを使って、ビーズで作るのと似たような技法で教えなきゃいけなかったんです。
でも、私のやりたいのはそれとは違った。
___と、おっしゃいますと?
天然石である以上、本来その石にあったカットにするべきなんです。例えば、トルコ石だったら、4ミリにカットしたりする必要はなくて、ただゴロゴロとした石をそのまま活かしたい。
でも流行っていたのは3ミリや4ミリの細かい雰囲気のものだったので、ちょっとバランスをとるのは難しかったです。
___そういう意味では、時代が流れてきましたね。
そうですね。皆さん、一通りやったと思います。(笑)
それで今、興味があって残っている方は、もっと上のものを目指してる。そうなると、ちょうどウチみたいに天然石を活かすアクセサリー作りをしてる所へ来るとビックリして、「あ、私のやりたいのはこれだった!」って言ってくださいます。