Archive for 12 August 2007
12 August
「ビーチマネー」
「ビーチマネー」
___ 「ビーチマネー」というのは、どんなプロジェクトなんですか?
海岸に行くと、どこの海岸でもビーチグラスが落ちているんです。
ビーチグラスというのは、もともとはビールやワインのビンだったりしたものが川の上流で捨てられたりして、最終的に海まで流れる間に砕けて、長い時間かけて砂や石にもまれて角が丸まって宝石みたいになったものです。このキラキラした宝石のようなものが湘南のイメージと合うと思って、これを何かに使えないか、ということだったんです。
ビーチグラスは結局ガラスですから、拾うことは海をキレイにすることになるでしょ? だから、たとえばフリーマーケットの時にお客さんが持って来てくれたらサービスをしたりディスカウントしてあげようか、ということが第一歩でした。
この第一歩の大きな力になってくれたのは、今僕が勤めている「がんこ本舗」という会社なんです。社長がとてもユニークな方で「じゃあ、ビーチグラスが使える1店舗目になっちゃおう!」って言ってくれたんですね。
それで、きっと他のお店でも、探せばきっと協力店が増えると思って、自分から営業に行ったんです。今では湘南中の50店舗のお店が「ウチも協力するよ」と行ってくれて、ビーチグラスを持って行ったら何かしらのサービスやディスカウントをしてくれるシステムが確立し始めてるんです。
___面白いアイデアですね!
中には宝物にしたいほどキレイなビーチグラスもあるんです。
これを、例えば僕がすぐそこのアイスクリーム屋さんに持って行って、一つ渡すと300円のアイスにチョコチップをトッピングしてくれるんです。今度は、アイスクリーム屋さんにビーチグラスがどんどん貯まって、オーナーが「これはキレイだから取っておこう。でも、これはよくある色だから使っちゃおう」と、50店舗のリストを見て「あ、今日はパンが食べたいな」とパン屋さんへ行って、それが今度はコロッケパンに化けちゃう。そうして、パン屋さんのオーナーは「飲みに行こう」と言ってバーへ行って、そこでも使える、と。
今の時代、ディスカウントストアへ行って安く買って、コミュニケーションなし。だから商店街が元気無くなっちゃってきているけど、この「ビーチマネー」があることで、お店とお店を繋ぐ役割を持っていて、地域活性に繋がる。
本当にその地域が好きだったら、商店街を盛り上げたいと思うし、理にかなったシステムが出来たと思っています。
「海」を感じて欲しい
___ビーチグラスを拾うと同時にゴミも拾おうよ、ということですね。
そうそうそう! それが大事なこと!
ただ「お金として使えるから拾いに行こうよ」じゃなくて、そこで「海」を感じて欲しいんです。
___そこが、エコサーファーのコンセプト「ゴミを捨てないような精神を持った人を増やす」ということに繋がる。
結局、モラルだと思うんです。
モラルがあれば、ゴミを捨てないのは当たり前なんだけど、モラルが無ければ無いで育んでいけばいい。じゃぁどうしよう、と言った時に、「ビーチマネー」のような仕組みがあれば、人が海へ行くキッカケになるだろうと思うんです。
最初は単純に「お金だから拾いに行こう」で良いんです。海に行けば下を見るので、「あぁ、こんな物が落ちてるんだ」とか「思ったより砂がサラサラしてる」とか「温かい」とか、意識は無くても必ずお土産がついてくるハズなんです。そこから、何か変わるんじゃないか、と言うか、気づくんじゃないか、って。
「ゴミ拾えよ」って上から言うんじゃなくて、それぞれの感性で感じてください、動いてください、ということです。
そこに波が立つ瞬間
___小田原の海だと、酒匂川の河口で流木を拾ったりする人がいます。
あぁ、あの辺もサーフィン盛んですよねぇ。
___サーファーの方たちが言う「ローカル」って、「縄張り」というような意味なんですか?
例えば、スノーボードだったら雪さえあればいつでも出来る。他のスポーツでも、テニスや野球はいつでも出来る。でも、サーフィンは海がなくちゃ出来ないし、海があっても波がなければ出来ない。その波だって、いつ出てくるか分からない。
それで、自分たちの「地元の海」というのがそれぞれあって、そこに波が立つ瞬間にいろいろな人がいっぱい来てしまうと、自分は乗れない。
地域の人たちをリスペクトする人だったら良いのですが、いきなり入って波を取ってしまったら、やっぱり地元の人は良い顔をしないです。地域をリスペクトすることは、他のスポーツでも何でも同じだと思います。
本当にみんな、自分の身近にある地元の海をキチガイのように愛してるんです。(笑)本当に愛していれば海を守っているだろうし、ゴミだって決められた日にやるんじゃなくて、行って落ちてれば拾うだろうし、そこでサーファーが上手に伝えられたら最高ですね。
どこの海も、それぞれの色があっていいと思います。それでいてリスペクトがあれば、ケンカすることなく上手く循環できると思うんです。
___堀さんのビーチクリーン・キャンペーンは、最初から順調だったんですか?
いや、最初はついつい順番を間違えてしまって、順調ではなかったです。
Eco Surfer主催でゴミ拾いを始めたんですが、ローカルの人が良い顔をしていないことに気づいたんです。もともと住んでいた人たちが昔から海を守ってきたのに、後からノコノコ来て我が物顔でやっているように感じたのでしょう。正直、ゴミを拾って怒られるなんて、やめてやろうと思ったりもしました。でも諦めずに、今はその人たちと一緒にやらさせてもらっています。
続けることは難しいけど、だんだんと周りからも認めてもらえるようになって、それが大きな力になっています。
(つづく)
フラーのみた夢
バックミンスター・フラー
___まず、「フラー・ドーム」を開発したバックミンスター・フラー(1895〜1983米国)の話から伺わせてください。
フラーがドームのことを考えたのは、1960年代後半です。
だけど、その前からいろいろなことを考えていて、例えば、ユニットバスの原型もフラーが提示したんです。それ以前にも、T型フォードの時代に流線型の車を作ったり、航空機産業の技術から、B29戦闘機の合成金属を使って円形の家を作っていたんです。
それから、地球を正20面体で表して「ダイマクション・マップ」という世界地図を考案しました。地球儀を、一番歪まない平面で表すことが出来る。
究極は、三角形という平面をくっ付けていって丸くなるからドームは面白いんです。僕はそこに惹かれたんです。ツルツルの丸い壁が出来ても、ポスターも貼れないし(笑)。
フラーが60年代の終わりに作り方を発表したら、ヒッピーが飛びついて全米にドームがいっぱい出来た。なんと、1969年のウッドストックの会場にもドームがあるんです。
ドームハウス
___ドームは、仮設テントのように容易に設営できる。
そうです。
ただ、ドームとドームハウスは違う。ただ丸いものが出来ればドームだけれど、ヒッピーが作ったものもそうで、骨組みにテントやガラスを張っただけ。雨が一切降らない地球だったら良いのですが(笑)。
___これからの時代を考えると、ドームハウスにはどんな可能性がありますか?
うーん、ドームばかりにはならないでしょう。好き好きで構わないと思うんです。
ただ、自然界のものを見ると「正方形」なんて無いでしょ? 今は四角いものばかり建っているから丸いものが目立ちますけど、そのうち逆になるかも知れないですよね(笑)。
まぁ、建材が四角いものばかりですし、四角い方が便利だというのも分かりますが。
___集合住宅となると、四角い方が効率が良い?
地震があって急いで住宅を作るような時に、確かにドームならば大きくて丈夫な空間をあっという間に作れるので良いのですが、プライバシーということになって仕切ってしまえば、ドームでも何でも構わなくなってしまう。
かと言って、小さいドームをいっぱい作っても、道路は四角いから、四角で囲われた中では効率よく配置出来ない。
やっぱりドームは若干不利になりますね。
___フラーは、その辺について何かヴィジョンを持っていたのでしょうか?
フラーは、もっと先へ行っちゃったみたいですね。
___もっと先?
コンクリートで大きな球を作る。直径7kmの!(笑)
そうして、外より温度を2℃高くすると、風船のように浮くと言ってるんです。空中浮遊都市。
それはNASAから予算をもらって、当時の建築技術で可能だ、というところまで行ったけど、それで終わっちゃった。核戦争で放射能だらけになったらこれしかないだろう、という発想だったようです。
___フラーはそこまで考えていたんですね!
東京タワーも、フラーの三角フレームで作られる計画だったそうです。
正力松太郎さんという方も非常にフラーに惚れ込んでいて、東京ドームもフラーのドーム構造で考えていたらしいのですが、当時は屋内で野球をやる発想がなくて「オーナー、野球は外でやるものです」と言われて却下されたという話を聞いたことがあります。
「宇宙船地球号」
___フラーは面白いですねぇ。
面白いですよ。
僕は数学が全然ダメで高校では赤点をもらった程なんですが、フラーをやって、三角関数をやらざるを得なくなって勉強をし直したんです。(笑)
必要に迫られると分かっちゃうのは面白いですね。「なんだ、こんな易しいことが分からなかったのか」って。
___ドームの設計は大変なのですか?
僕は建築も設計も知識が無く始めたので、試行錯誤でした。紙で図面を描いたことがなくて、CADでやっています。
人と同じことをやっているのが嫌で、建築士は日本に何万人もいるから、ドーム建築のスペシャリストになった方が良いと思っています。
___独自の路線を突き進んで行くのですね。
そうですね。それしかないですね。(笑)
___そういう姿勢も、フラーと共鳴するのでしょうか。
うーん。。フラーは、今ではそんなことはないですが、当時は極端に評価が分かれたんです。
本当は、ドームは球体なのですが、地球は引力があるから仕方なく半分に切っている。どこかに置かなくちゃいけないですからね。球だと一点で支えることになってしまう。
でも宇宙に打ち上げてしまえば、丸い方が自然でしょ。惑星だって丸いし。雨も無いし、空気抵抗も無いし、力のバランスだけ。そこで最少の材料で強いものを作ると言ったら、球体にならざるを得ない。
ただし、これが現実的かと言ったら、ドームという発想までは良いけど、ハウスとなると確かに問題がありますよね。「そこから先は君たちがやってくれ」とフラーが言っているような気がします。(笑)
発想が大きすぎて着いて行けなかったのかも知れないですね。今になってフラーの予言が証明されたりしています。フラーレーンと呼ばれる炭素原子の最強構造も、90年代になって見つかりました。
世界を一つの生命体と捉えて、地球の様々な問題をシミュレートする「ワールドゲーム」というものを考案したりして、ノーベル平和賞の候補になったこともある。
「宇宙船地球号」というのは、フラーが唱えた言葉なんです。
(つづく)