Archive for 12 August 2007
12 August
フラーのみた夢
バックミンスター・フラー
___まず、「フラー・ドーム」を開発したバックミンスター・フラー(1895〜1983米国)の話から伺わせてください。
フラーがドームのことを考えたのは、1960年代後半です。
だけど、その前からいろいろなことを考えていて、例えば、ユニットバスの原型もフラーが提示したんです。それ以前にも、T型フォードの時代に流線型の車を作ったり、航空機産業の技術から、B29戦闘機の合成金属を使って円形の家を作っていたんです。
それから、地球を正20面体で表して「ダイマクション・マップ」という世界地図を考案しました。地球儀を、一番歪まない平面で表すことが出来る。
究極は、三角形という平面をくっ付けていって丸くなるからドームは面白いんです。僕はそこに惹かれたんです。ツルツルの丸い壁が出来ても、ポスターも貼れないし(笑)。
フラーが60年代の終わりに作り方を発表したら、ヒッピーが飛びついて全米にドームがいっぱい出来た。なんと、1969年のウッドストックの会場にもドームがあるんです。
ドームハウス
___ドームは、仮設テントのように容易に設営できる。
そうです。
ただ、ドームとドームハウスは違う。ただ丸いものが出来ればドームだけれど、ヒッピーが作ったものもそうで、骨組みにテントやガラスを張っただけ。雨が一切降らない地球だったら良いのですが(笑)。
___これからの時代を考えると、ドームハウスにはどんな可能性がありますか?
うーん、ドームばかりにはならないでしょう。好き好きで構わないと思うんです。
ただ、自然界のものを見ると「正方形」なんて無いでしょ? 今は四角いものばかり建っているから丸いものが目立ちますけど、そのうち逆になるかも知れないですよね(笑)。
まぁ、建材が四角いものばかりですし、四角い方が便利だというのも分かりますが。
___集合住宅となると、四角い方が効率が良い?
地震があって急いで住宅を作るような時に、確かにドームならば大きくて丈夫な空間をあっという間に作れるので良いのですが、プライバシーということになって仕切ってしまえば、ドームでも何でも構わなくなってしまう。
かと言って、小さいドームをいっぱい作っても、道路は四角いから、四角で囲われた中では効率よく配置出来ない。
やっぱりドームは若干不利になりますね。
___フラーは、その辺について何かヴィジョンを持っていたのでしょうか?
フラーは、もっと先へ行っちゃったみたいですね。
___もっと先?
コンクリートで大きな球を作る。直径7kmの!(笑)
そうして、外より温度を2℃高くすると、風船のように浮くと言ってるんです。空中浮遊都市。
それはNASAから予算をもらって、当時の建築技術で可能だ、というところまで行ったけど、それで終わっちゃった。核戦争で放射能だらけになったらこれしかないだろう、という発想だったようです。
___フラーはそこまで考えていたんですね!
東京タワーも、フラーの三角フレームで作られる計画だったそうです。
正力松太郎さんという方も非常にフラーに惚れ込んでいて、東京ドームもフラーのドーム構造で考えていたらしいのですが、当時は屋内で野球をやる発想がなくて「オーナー、野球は外でやるものです」と言われて却下されたという話を聞いたことがあります。
「宇宙船地球号」
___フラーは面白いですねぇ。
面白いですよ。
僕は数学が全然ダメで高校では赤点をもらった程なんですが、フラーをやって、三角関数をやらざるを得なくなって勉強をし直したんです。(笑)
必要に迫られると分かっちゃうのは面白いですね。「なんだ、こんな易しいことが分からなかったのか」って。
___ドームの設計は大変なのですか?
僕は建築も設計も知識が無く始めたので、試行錯誤でした。紙で図面を描いたことがなくて、CADでやっています。
人と同じことをやっているのが嫌で、建築士は日本に何万人もいるから、ドーム建築のスペシャリストになった方が良いと思っています。
___独自の路線を突き進んで行くのですね。
そうですね。それしかないですね。(笑)
___そういう姿勢も、フラーと共鳴するのでしょうか。
うーん。。フラーは、今ではそんなことはないですが、当時は極端に評価が分かれたんです。
本当は、ドームは球体なのですが、地球は引力があるから仕方なく半分に切っている。どこかに置かなくちゃいけないですからね。球だと一点で支えることになってしまう。
でも宇宙に打ち上げてしまえば、丸い方が自然でしょ。惑星だって丸いし。雨も無いし、空気抵抗も無いし、力のバランスだけ。そこで最少の材料で強いものを作ると言ったら、球体にならざるを得ない。
ただし、これが現実的かと言ったら、ドームという発想までは良いけど、ハウスとなると確かに問題がありますよね。「そこから先は君たちがやってくれ」とフラーが言っているような気がします。(笑)
発想が大きすぎて着いて行けなかったのかも知れないですね。今になってフラーの予言が証明されたりしています。フラーレーンと呼ばれる炭素原子の最強構造も、90年代になって見つかりました。
世界を一つの生命体と捉えて、地球の様々な問題をシミュレートする「ワールドゲーム」というものを考案したりして、ノーベル平和賞の候補になったこともある。
「宇宙船地球号」というのは、フラーが唱えた言葉なんです。
(つづく)