Archive for 10 August 2008
10 August
川の流れの如く
artist file "tanebito" [Archives #3]
土屋 譲 さん(打楽器プレーヤー)
土屋 譲 さん(打楽器プレーヤー)
自然に生かされている。それが僕にとっては一番の深い感覚なんです。
朝、ドアを開けると、鳥が目の前の木にとまって「ちゅんちゅんちゅん」て囁くんですよ。
それを聞いた時に、僕たちが出してる音ってみんな雑音だな、って思いましたね。
朝、ドアを開けると、鳥が目の前の木にとまって「ちゅんちゅんちゅん」て囁くんですよ。
それを聞いた時に、僕たちが出してる音ってみんな雑音だな、って思いましたね。
___いつもドラムを演奏しながら何を考えてるんですか? 気持ち良さそうに叩いてますネ。
考えてないですよ、何も(笑)。
何かの為に演奏する、というのは有り得ないですね。僕は「自然」というのをテーマにしてる。ずぅっと遡って、人類がこの世に生まれる前に「自然」はあるわけですよ。海があって、山があって。人も自然に生かされている。それが僕にとっては一番の深い感覚なんです。
僕自身、自然の中に行こうと思った時期があったんですよ。寄(やどろぎ)っていう所なんですが、そこで、山の中で暮らそうと思った。音楽だとか考えなくて。
山があって、川があって、谷の端にログハウスがあって、「そこで暮らせば?」と言われて2年ほど暮らしたんです。丸太の間から隙間風が凄くて、寒いし。でも、朝、ドアを開けると、鳥が目の前の木にとまって「ちゅんちゅんちゅん」て囁くんですよ。その音色がものすごくキレイなんですよ。それが谷間に響くんですよ。
それを聞いた時に、僕たちが出してる音ってみんな雑音だな、って思いましたね。
___音楽家の演奏も雑音?
どんなに上手いクラシックの演奏家でもそこまでは行けないかな。鳥のさえずりを聞いて、僕は愕然としましたね。
特に僕なんか打楽器じゃないですか。「こんなキレイな自然ってあるんだ」と思うと、到底追いつけないし、しばらく音が出せなくなった。
参りました m(_ _)m っていう感じ(笑)。
___そのログハウスにはドラムセットを持ち込んだんですか?
もちろん持ち込みました。
実は、自分のドラミングや音楽性を変えようとして自然の中へ行ったのに、しばらくはドラムセットに向かえなかった。
___どのくらいの期間ドラムを叩けなかったんですか?
半年くらいは叩けなかった。
その間、情けないことに、お酒を飲んだり、川の流れを眺めながら鳥の音を聴いたり、夜はたき火をしたりして。
本当に「自然」っていうのは無駄な音が無くて、安らいじゃう。でも、だんだんその安らぎが危険だなって思い始めたんですよ。「自分はまた音楽ができるのかな?」って。
今感じているのは大事なことだけど、「でも俺は音を出して何かやらなければいけないんじゃないか?」って、このままボーッとしたままになってしまうこととの、精神的な戦いになりました。そして、そういうことを感じた土屋譲が良い音を出せばいいんじゃないか、って無理矢理自分に言い聞かせた。
川の流れってJazzのスイング感そのものなんですよ。
決して一定ではないんだけど、流れて行く。そして、優しい。
決して一定ではないんだけど、流れて行く。そして、優しい。
そんな体験がすごく役に立っているし、音を大事にするようになりましたよ。
例えばシンバルって金物系って言うんですけど、キンキンするじゃないですか。でも、叩いてるスティックは木ですよね。木と金属をどうやって交わらせるのか。その間に僕が入って、僕の奏法があれば、絶対に良い音が出せる。
同じことを、僕は川の流れで感じたんです。川が流れて行く時って「ザァー」って流れて行くんだけど、よく聞くと抵抗もあるじゃないですか。海の満ち引きの音は例えばブラシを使って表現できるんですけど、川の流れってJazzのスイング感そのものなんですよ。決して一定ではないんだけど、流れて行く、そして、優しい。
Jazzではトップシンバルを中心に音楽が動いて行くんですが、僕はそのシンバルレガートが川の流れの如く動いて行ければいいなぁって、それをイメージして叩いてきたんです。そうしたら、Jazzだとかジャンルにこだわりが無くなった。自然に音が出ることさえ思っていれば、どんな音楽でも出来るんだっていうことが分かった。
流れてるでしょ。毎回違うんですよ。変化してるんですよ。川だけじゃなくて、すべて、毎日が、川の流れの如く。時の流れを感じるのかな、川の流れを見ていると。
___「唄心」ということについては、自然の中で暮らすことで変化がありましたか?
それについては違いはないですね。
でも、昔は荒かったかな。唄ってるというよりは、単純にリズムを楽しんでるだけだった。結局は今またそこへ戻ってきているんだけど、無駄な音を出すくらいだったら暴走族と同じだろ(笑)。
___それを自己表現だからと許される境目って何でしょう?
どんな形であれ、他人がうるさいと思うものはうるさいんですよ。ただそれだけ。そこに境目は無い。
川の流れや、空気の匂いだとか。すべてが漂っていて、それを感じちゃうと、音を出すのが怖くなる。
目の前で生きている花を感じること。それが「宇宙」だと思うんです。
瞬間瞬間でいろんなことがあって、過去からずっと思っている事もシンコペーションしてますから、
毎日同じ演奏をしていたらオカシイんです。
瞬間瞬間でいろんなことがあって、過去からずっと思っている事もシンコペーションしてますから、
毎日同じ演奏をしていたらオカシイんです。
___そのうえで、今の地球や社会に対して、ミュージシャンとしてどんなメッセージを送ろうとしていますか?
僕にとっては、目の前で生きている花を感じること。それが「宇宙」だと思うんです。それを感じられない人には、デカイことは感じられない。
音楽も同じで、小さなことから始まるんです。ドラムセットが無くても、その辺を叩けば音は出るでしょ? 「音」ってそういうものなんです。「ポーン」と叩いて、「なんでこんなに響きが良いんだろう」とか感じる。それを拡大すればいいんです。
身の回りには「小宇宙」があるので、それを感じていれば、小さいところから始まると思います。
___「自然」の中で、リズムセクションとしての立場はどう感じていますか?
自分は「土」かな。「海」にはなれない。名前が「土屋」だから(笑)。
___「土」として「畑」のように育んでいるものがありますか?
瞬間瞬間でいろんなことがあって、その日に感じた事や、過去からずっと思っている事もシンコペーションしてますから、それを全部含めて、僕は演奏の中に取り入れて太鼓を叩いています。だから、何が起こるか分からないですよ。
___毎日の夕陽の色が違うみたいに。。
そう!
毎日同じ人はいない訳だから、毎日同じ演奏をしていたらオカシイんです。だから、その日の自分に素直に演奏することがミュージシャンなんだと、僕は思います。
___お客さんも一期一会の音を聴く。
だと思います。
それを楽しみにしてくれる人が多いので、それが僕の励みにもなるし、楽しい演奏を聴いて帰って欲しいので、精一杯ふりしぼって演奏してます。
もともと日本人はゆったりとした大きいリズムを相として持っているのに、
せわしないリズムに行きたがる。刺激を求めたがるんだと思います。
せわしないリズムに行きたがる。刺激を求めたがるんだと思います。
___人間のリズムの基本は、心臓の鼓動から来ている?
「ドクンドクン」だから、聞こえている音だけから言ったら2つの音。
___2拍子ですか?
でもこれは、最後まで聴くと3つになるんです。「ド・ク・ン / ド・ク・ン」という刻みなんです。3拍子。
僕なんかJazzじゃないですか。Jazzのビートも、基本的には3つなんですよ。その中にいろいろな音符が入っていますけど、構成としては3連符を刻んでる。それが早いか遅いか、というだけ。
それが、Rockなど8ビートのサウンドが受けている理由につながるんです。
ヒトが持っている基本的なリズムが3拍子だから、『スケーターワルツ』のような3/4の曲は人が和むんです。で、それに逆らって、1拍の中で「タタタタ」と4つ刻んだら「アレ!?」っと思うでしょ?
___刺激的なんだ!
その通りなんです。
リズムの発祥地アフリカの「ポリリズム」も3拍子から成り立っているんです。奇数ですよね。8ビートや16ビートは偶数拍ですから、全然取り方が違うから刺激的なんでしょうね。だからみんながそこに惹かれるんだと思います。
___しかもデジタルな社会ですし、、
余計にそうなんでしょうね。偶数の方がキッチリ行くんですよ、リズムも。
___あぁ、そうか、割り切れますものね。
奇数の方が難しいんです。ゆったりしてるし。
___オーガニックなのかな?
そういうリズムは奇数の方が出せるかな。僕の経験の中では、そう思います。自然が3拍子で動いてるとは思いませんが、自然の推移とか、自分の呼吸に逆らわないで出来る。
8ビートも16ビートも楽しいですよ。でも 3/4の曲を演っている時は気負わなくて済むのが不思議ですね。
___Jazzのスウィング感や「シャッフル」なども、その辺の感覚なんでしょうか?
「シャッフル」もそうですよね。子供でも分かるように言うと「お馬さんポッコポッコ」ですよ。4本の足でシャッフルで走る。(笑)
不思議ですよね。(笑)「4」が「3」になってる。「サンバ」ですよ。
「サンバ」って、「4」と「3」が入り乱れてる。で「どっち行ったらいいんだ?」っていうもどかしさがイイんです。どっちでもOKっていう。
国によってリズムもいろいろあって面白い。
___そうしてみると、日本のリズムは、どちらかと言うと鼓動を感じませんね。あんまり心拍数が上がらない。
日本のリズムは、鼓動を感じたうえで演る感じですね。イチイチひっきりなしに演るんじゃなくて、「ボーン」と出したら後は沁みて行くのを感じてる。だから、もっと大きいのかも知れない。
もともと日本人は、ゆったりとした大きいリズムを相として持っているのに、せわしないリズムに行きたがる。そうやって、刺激を求めたがるんだと思います。自分も若い頃はそうでした。
___一リスナーとして思うことですが、どうしてもっとたくさんの人に聴いてもらおうとなさらないんですか?
(笑)
店に来て聴いてください、って思います。それが一番生き生きした演奏が出来ているから。
僕は、特別有名になりたいとか、すべての人に聴いてもらいたいとか、あんまり思わないんです。まず小田原でも出来ていないのに、東京だとかNYだとか、どこへ行っても無理でしょ。
さっき言った「身近にある花」と同じです。どこかへ行けば何かが成り立つ、という考えではないです。
例えば、僕は小田原で演っていて、日本でも力のあるプレーヤーが来てくれています。それでも、小田原の人は知らなかったりするし、有名な人が来れば良い演奏という訳でもない。要するに内容なので、僕が演奏をまとめて行けば良いし、そういう意味での自身はあります。僕が、呼んだプレーヤーの心を動かして、演奏に変化を出して行けばいい。演奏が終わって、「違う体験をした」と言って帰ってもらえれば御の字じゃないですか。